一夜だけの恋も、重い愛もいりません。〜添乗員しづの恋
「本当は飛行機が速いんだろうけど、何せあの人は心臓病だからな」

「そうですね」
 
 手術をしていない赤石さんは、またいつ発作が起きるかは分からない。
 
 長崎と宮崎では車で五時間近くかかる。
 

「明日の朝、病院に迎えに行くように伝えてる」

 頷きながらも、今夜の事を考えると緊張してきた。
 
「すっかりそちらにお任せしましたけど、今夜の宿って……」
 
「金、勿体ないから車中泊にするか?」
 
「えっ?!」
 
 この狭い車にずっと二人きり?!
 
「冗談だよ。すげぇ顔。病院近くのホテルにシングル2つ取ってるよ」
 
  なんだ……。
  良かった。

 「えらいホッとしてるな」
 
 「あなたが言うと冗談に聞こえないんです」
 
 「お前が頭堅いからだよ。そんなんだから直ぐにつけこまれる。客にも昔の男にも」
 
 「カモメにも、でしょ?」
 
 「そう、わかってんじゃん」
 
 声を上げて笑うと、岡田は顔を引き締めて高速に乗った。
 
 やっぱり、この人の運転をする時の顔は嫌いじゃない。
 
 バスの時と同様、岡田は至って安全運転だった。





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