一夜だけの恋も、重い愛もいりません。〜添乗員しづの恋
「ほら、バスに忘れてたぞ」
 
 そして、ごま豆腐の入った買い物袋と一緒に何かを入れて、赤石さんに手渡していた。
 それは、
 
「あ、やっぱりバスだったの! 良かった! 暇だから読もうと思ってたのにバッグに入ってなかったからさぁ!」
 
  ブックカバーのついていない、一冊の文庫本だった。


 【すべての美しい馬】と書かれた本、小説だろうか?
 
「それ、俺も読んだ事あったから、妙に親近感持った」
 
 へぇ。岡田って漫画だけじゃなくてこういうのも読むんだ。
 感心している私の横で、本をパラパラと捲る赤石さんの手が止まった。
 
「……?……」
 
 頁の間に挟まっていた物をそっとつまんで数秒ほど眺めると、再び大事そうに元に戻していた。
 
 桜の花弁だった。
 
 
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