一夜だけの恋も、重い愛もいりません。〜添乗員しづの恋
 それは、なんと不運な……。
 かける言葉も思い付かず、頂いたごま豆腐も食べられずにいると、
 
「どっちの間にも子供を授からなかったからね、私の体に何か問題があったのかもしれないけど。だから、今、私は天涯孤独なんだよ」

 赤石さんが放った、天涯孤独という言葉が胸に響いた。
 
 親が亡くなり、兄弟とも疎遠になったら、独身だとそういう日がいつか来る。
 実感は全然ないけど。
 
「そうなるとね、いざ、入院・手術となると大変なんだよ」

 射し込む夕陽が赤石さんを包み込んで、グレーのグラデーションを作る頭髪をキラキラと輝かせていた。
 
 それと同じくらい、横顔に孤独からくる陰が広がっている。
 
「………そうですよね、連帯保証人や手術の同意書にも、本人以外のサインいりますもんね」
 
 身寄りのないお年寄りが増えてきた現代。
 保証人になる会社も増えてきたけれど、それはそれで様々な問題がある。
 
「どんなに旦那との幸せな想い出があっても、老いた独り者に世間は厳しいのよ」

 
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