一夜だけの恋も、重い愛もいりません。〜添乗員しづの恋
「そんな傷ついた顔すんなよ、俺、意地悪みたいじゃんか」
 
「みたい、じゃなくて意地悪ですよ」
 
 はは、と笑う岡田は、離婚してから実家に出戻ったりはしてないんだろうな。
 
 不規則な仕事なのに、家事は自分でやってるんだろう。
 私とは大違い。
 

 ホテルに入る頃には、陽が落ちて辺りは薄暗くなっていた。

 岡田の部屋は隣だった。
 それぞれ、フロントで受け取った鍵で開ける。
 
「ここの一階のファミレスの食事券、何時でも使えるからな」
 
 夕食の事だろうけど。
 
「お腹空いてないから、今夜は行かないかも」
 
 さっき、ごま豆腐食べたし。
 
「同じく………」

  岡田は、ドアを開けながら何か言いた気だ。

  彼がぶら下げている袋を見て、部屋飲みの誘いを思い出し、
 
「………あ」
 
 返事をしようとしたけれど、二人の目が合うと口をつぐんでしまった。

「これ。半分持っていくか?」
 
  岡田が酒の入った袋を差し出す。

「………そ」
 
  そうですね、と言おうとして、また口をつぐむ。
 
 鋭いのに何処か憂いのある、岡田の漆黒の目を見ていたら、本当にそれでいいのかと、思ってしまったからだ。
 
「じゃあ、こっちで冷やしておく」
 
 岡田は、ホテルの冷蔵庫には全部は収まりきらないだろう量のそれを持って、部屋に入って行った。
 
  ………部屋飲み、決定。



 
 
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