一夜だけの恋も、重い愛もいりません。〜添乗員しづの恋
 え。
 
 思わずお母さんと顔を見合わせる。
 岡田は、造りのいい顔立ちを最大限に生かし、私達を照らす夕陽さえも味方に、まるで映画のラストを飾る俳優のように、言葉を放つ。
 
「紫都さんと行きたい所があるんです、近くではあるんですが」
 
 それ、どこ?
 急に思い付いたの?
 
 呆気に取られている私に反して、
 
「もう少しと言わず、どうぞどうぞ、30も過ぎた大人なんだから」
 
 お母さんは、自分が誘われたかのように照れて私を差し出す。
 
「では、いってきます」
 
 岡田が会釈をして、私には顎でしゃくって乗車を促す。
 
 良く、わかんないけど、
 
「じゃ、じゃあ、ちょっと行ってくるね」
「はいはーい、ごゆっくり」
 

 この人。
 女心、動かすの、ウマイなぁ。










 
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