一夜だけの恋も、重い愛もいりません。〜添乗員しづの恋
 大浴場が閉まるまであと二時間。

お客様に会わない為には閉場ギリギリ入るのが良い。
朝風呂に入る人は案外多いものだから。

遅い夕食を摂ってからメイクを落とし、浴衣に着替える。
ごわついた感触…。
Mサイズとはいえ、ちょっと大きいみたい。
寝るだけだし、ま、いっか。
真っ暗な窓の方を見て、カーテンと障子を閉めた。

【風向きによっては灰が入ることもありますので窓は開けないでください】

注意書を見て、ここは桜島があるんだったと思い出した。

ツアーの行き先確認だけでいっぱいいっぱい。
元々、旅行が好きで就いた仕事なのに、今じゃ、その楽しみ方や喜びも忘れてしまっている。

すっかり仕事人間になってしまった。
女としてはどうなの?……

″ 客と浮気してるんだろ?″

″ 俺とそうなったみたいに、他の男にも色目使ってるくせに ″

ちょいちょい思い出す最後の恋愛。

別れた時の、″ あの人 ″ からは憎しみしか感じられなかった。
スレ違いが重なって、潔白を信じて貰えなかったからだ。

それでも、私は、まだ好きだったと思う。
よりを戻したくはないけど、今 でも想いは残っているし、消し去りたいとも思わない。

でも、思い出ばかりで、新しい恋が出来ない私は、今じゃ心も体もすっかり枯れてきてしまった。

「泥パック……してみよ」

干からびても、まだ、″ 女″ ではいたいもの。









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