一夜だけの恋も、重い愛もいりません。〜添乗員しづの恋
「カラオケ、歌い足りない方いませんか? あと10分程でお開きですよー」

 家族連れ等のお客様は既に部屋に戻っていたため、宴会場も閑散としてきていたが、お酒好きの方はいつまでも呑んでいた。
 その中の一人、
 
「添乗員さんはぁ、下の名前は何ていうのぉ?」
 
 完全に目の座った南條さんに何度も絡まれるも、それもあと数分の我慢。
 
「朝、ご挨拶しましたけど、忘れちゃいましたか? 紫都ですよ」
 
「ちずぅ??」
 
「し、づ、です」
 
「だっせぇ名前だなぁ!」
 
「……」
 
  確かに古風な名前だけども。
 
「しづ! 俺の部屋まで来い!」
 
 しつこい南条さんを適当にかわし、足元のふらついた年配のお客様をエレベーターまで見送る。
 
 未精算のお客様の伝票を確認してから、ようやく自分の部屋に戻った。
 
 時計を見たら22時。
 
 ……大浴場、まだ間に合う。


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