一夜だけの恋も、重い愛もいりません。〜添乗員しづの恋
 俺が勤めていたスタジオは、業界ではわりと大手の方であった為、仕事は途切れることなく入ってきていた。
 
 パンフレットやアルバム、広告、時にCMや、有名人の撮影まで。
 メインのカメラマンとして仕事を始めて一年後、口うるさいと有名な、ある女優を撮る機会が巡ってきた。
 先輩達が恐れをなして敬遠したからだ。
 ビッグチャンス――そう思った。

「お疲れさまでしたー!」
 
 撮影終了後、その女優に声をかけられた。
 
「あなた可愛いわね、タレント志望ではないの?」

 機材を片付けていた俺は、
 
「僕ですか? はい、タレントには成りたくないですね。カメラマンなんで」
 
 緊張を隠すように、あえてぶっきらぼうに答えた。
 
 女優は「勿体ないわね」と、残念そうに、そして欲しそうに俺を見つめていた。
 壁によりかかり、腕を組んで、ちょっと上からな感じで。
 背中に感じる、ねっとりとした視線。
 
 極力、気づかれない様に振り返って女優をチラ見すると、まだ、俺を見ていた。
 
 ゾクッときた。
 良い意味でも、悪い意味でも。


 
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