一夜だけの恋も、重い愛もいりません。〜添乗員しづの恋
 そして。
 また新たな決断を迫られる時がやってきた。

「ねぇ、資金援助するから、自立してみない?」

 恐らく、仕事斡旋にも限界があっただろう英子が、独立話を持ちかけてきた。
 
「まだ早いよ、俺には」
 
 一人でやる自信なんて無かったから、直ぐには首を縦に振らなかった。
 けれど、英子は会うたびにその話をするようになった。
 
「そんなことないって。スタジオ勤務して二年で独立する人多いんだって。大伍、もう三年でしょ? それに、私が紹介した仕事で人脈も広がったはずよ。試すチャンスじゃない。月収も今の二倍くらいにはなるって聞いたわ」
 
「それはうまくいけばの話だろ?」
 
「大伍なら、うまくいく。それに苦労するなら若いうちがいいのよ」
 
  ″若いうちに ″……。
 
  同じことをスタジオの社長は言っていたっけ。
 
「今は、仕事を選べてないでしょ? 独立したら自分の好きなものを撮れる。評価もギャラも全うに貰えるのよ」
 
 激務のわりに、会社が持っていく()が大きいことに気がつき始めていた俺は、英子の後押しをきっかけに独立することを決めた。





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