一夜だけの恋も、重い愛もいりません。〜添乗員しづの恋
 急かすように運転手の袖を引っ張ると、運転手はフッと嫌な笑いを浮かべて言った。
 
「あんな薄味の味噌汁みたいな女のどこがいいんだ」
 
「み…」
 
  例え、食い物かよ。
  おまけに、
 
「あんたはもう部屋に戻ってな」
 
「えっ、でも!」
 
「たとえ情報をくれた客でも、添乗員の部屋は教えられない。俺が何とかするから」
 
  いいとこ横取りじゃないか。
 
「そんなっ……」
 
「早くそのビール飲んで寝ろよ」
 
  なかなか引き下がらない 俺をエレベーターに押しやる運転士。
 
 そういうあんたは、安全パイなのかよ?
 閉まる扉の間から、奥の方へ走っていくそのスラリとした背中を見送った。
 
 薄味の味噌汁みたいな女なのに、案外必死じゃないか。
 
「……」
 
 あんなイケメンに助けられたら、どんな女も惚れてしまうに違いない。
 
 とんだ邪魔者が入ったと思った。
 



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