一夜だけの恋も、重い愛もいりません。〜添乗員しづの恋
 蛯原さんが率いる団体の最後尾の、木下さん親子を睨む三宅くん。
 
「そうです。その場には居なかったから分かんないけど、あの感じじゃ、アイツは貴女を襲う気だった。普通なら強姦未遂で御用なんじゃないんですか?」
 
「……三宅さん。もう少し声を落として」
 
  ″強姦未遂 ″という重々しい言葉に、気持ちが滅入る。
 狙われること自体、添乗員として舐められた証拠だからだ。
 
「私の仕事は、旅を行程管理し、お客様を無事に送り届けることなの。もし、訴えるのなら旅が終わってからにするから」
 
「甘いよ、そんなの。また今夜も襲われたらどうするの?」
 
 一人のお客様に、こんな心配をかけてしまう自分も情けない。
 
「……大丈夫。不用心さの反省は出来てるから。運転士の岡田さんにも注意されたの」
 
 私がそう答えると、三宅くんの顔が曇った。
 
「……そうですか」

 どうして、そんな顔をするの?

「すみません、俺も人のことを責められないんだった……」
 
 何故か謝る三宅くん。
 
 「どういう意味?」
 
 それには答えないで、眩しそうに大きな鳥居を眺めた。
 
 
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