一夜だけの恋も、重い愛もいりません。〜添乗員しづの恋
「北郷氏初代当主北郷資忠が、当地にて月見の宴を催した際、18歳で領内一の美女と言われていたお雪(おしず)が資忠にお酌をし、誤って酒をこぼしてしまいました。それを恥じ杯を持って滝つぼに身を投げたそうです。名月の夜になると滝つぼから朱塗りの杯が浮かんでくると伝えられています」
 
 蛯原さんの声もかき消されそうな滝の音だ。
 
 元々、滝というのは自然と浮幽霊等が集まりやすいもの。
 
 ここも自殺の名所等と言われてるけれども、さほど霊的なものは感じない。
 
「じゃあ、俺が今、撮ったものに、その類いのは写っていないってことですよね?」
 
「ええ、霧を幽霊だと見間違えるくらいじゃないですかね」
 
「へぇ、なんか桑崎さんて、見かけによらず逞しいな」
 
「……そう?」

「あなたと一緒なら、そういう仕事を引き受けてもいいかもしれない」
 
「いやいや、ちょっと感じるだけで怖くないわけでも、お祓いが出来るわけじゃないんですよ?」
 
  一緒ならって。
 
  どうして、そんな惑わすこと言うの?

「それでも。是非、お願いしたいな」
 
 三宅くんの目がわりと真剣だったから、妙にドキドキしてしまった。


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