一夜だけの恋も、重い愛もいりません。〜添乗員しづの恋
 これ以上、長引かせたくない。
 ゆっくり立ち上がると、またも吊り橋が激しく揺れて、蛯原さんが近寄って来るのがわかった。
 

「ポリス!ポリス!」
 
 しゃがれた声で、橋の向こうを指差している。
 誰か警察に通報したの?


 ″ポリス ″に反応した韓国人は、更に吊り橋が揺れる勢いで渡っていき、私たちの前から消え去った。
 
「大丈夫? 無理しちゃダメ!」
 
  蛯原さんが私の鼻血を見て血相を変えていた。
 
「……警察、来たんですか?」
 
「まさか。嘘に決まってるじゃない、韓国人がスマホの弁償とか言い出す前に離れて貰うためよ!」
 
  なんだ。

「……良かった」
 
 蛯原さんは、私の気持ちをくんでくれている。
 こちらに非がなくとも、あちらが三宅くんにスマホを落とされたと言い張れば、暴行の理由として成立してしまう可能性があった。
 
「スミマセン。僕のせいで」
 
 三宅くんが、申し訳無さげな気にシュンとした。
 
「三宅さんのせいじゃないから! 悪いのはカメラ取り上げようとしてたあっち!」
 
 蛯原さんが励ましている。
 さっきまで南条さんたちのトラブルを対処してたのに、しながら、こっちも気になってたんだね。

「……ぁ……」
 
 何となく気配を感じて視線を移すと、 橋の先に運転士の岡田がいた。







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