一夜だけの恋も、重い愛もいりません。〜添乗員しづの恋
 冷たい目。
 
「鼻血、止まらないみたいだな。何やってるんだ、添乗員の癖に」
 
「……!」
 
「こんな時に説教?! 」「桑崎さんは俺を庇ったんですよ!」
 
 蛯原さんと三宅くんが反論してくれたけれど、岡田の言ってる事は正しい。
 
 私の仕事は、お客様が潤滑に、予定通り旅行が出来るように管理すること。
 
 それなのに、
 
「あんたが動けなくなったら、誰が行程を管理して精算するんだ? 」
 
 今は、鼻血が止まらなくて、何もできない。
 
 添乗員が最善を尽くして避けなければいけないのは、旅行中の事故・怪我・警察沙汰・病気。
 
「あっちの添乗員とは名刺を交換して、殴った男の名前を確認しておいた。万が一、被害届を出すなら必要だろ」
 
「……韓国語、話せるんですか?」
 
 その問いに返事はなかったものの、やっぱり岡田は普通のドライバーではないような気がした。
 
「あんたはあんたの仕事あるだろ? 戻ったら?」
 
 岡田は蛯原さんに顎で、あっち行け、というと、私の背中と膝下に腕を回して、ヒョイと軽く抱き上げた。

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