一夜だけの恋も、重い愛もいりません。〜添乗員しづの恋
「な、なに?」
 
 お姫様だっこ? こんな吊り橋で?
 
「あっちに元看護師ってのが待機してるから、急ぐぞ」
 
「え、いや、走らないで」
 
「予定が押すだろ」
 
 そりゃそうだけど……。
 
 他のお客様が渡ってしまうのを確認して、岡田は、私を抱きかかえたまま、大股で移動した。
 
 そのあとを三宅くんが追ってくる。
 
 先を歩いていた蛯原さんも、珍獣にでも出会ったような顔をして振り返っていた。
 
「そんなに力強くしがみつくなよ。落としたりしない」
 
「あ……、ごめんなさい」
 
 自然と、岡田の首に回す腕に力を込めてしまっていた。

 こんな風に、男性に全身を委ねたのは何年ぶりだろう?

 無愛想だし、しかも恐らくゲイだけど。

 その抱かれ心地は頼もしくて、懐かしい気さえした。

 ……きっと、運転士の制服のせい。

 遠い記憶が蘇り、感じる温もりを離したくないと思った。

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