重力圏外のプロポーズ、軌道修正は不可能です~宇宙飛行士は恋に不器用~
来店を知らせるベルが鳴り、軽やかな声が店内に響く。
入ってきたのは、三浦 陽翔。
フリーのイラストレーターの彼は、いつものようにスケッチブックとタブレットを抱えて、窓際の席に腰を下ろす。
「おはようございます、三浦さん。今日もお仕事ですか?」
「うん、締切前の追い込み。ここだと集中できるんだよね」
「それは光栄です。いつものブレンドでいいですか?」
「うん、お願い。あと、今日のケーキは?」
「今日のおすすめは、レモンケーキです」
「じゃあ、それも頂くよ。君のケーキ、外れたことないからね」
陽翔の言葉に、結月は少しだけ頬を緩めた。
彼はこの店の常連で、結月にとっては数少ない“気を遣わずに話せる相手”だった。
「そういえば、結月ちゃんってさ、前に言ってたよね。パティシエになりたかったって」
「……あ、はい。一度は諦めたんですけど、最近また少しずつ勉強し直してて……」
「いいんじゃない。夢は年齢に関係なく叶えれるから」
「ありがとうございます。今ここで働きながら、夜に製菓学校に通ってるんです。まだまだですけど、いつか自分のお店を持てたらいいなって……」
「結月ちゃんのケーキ、ほんとに美味しいから、お店ができたら、俺常連になるよ!……いや、むしろ宣伝担当になるよ!」
「あはっ、……ありがとうございます。頑張りますね」
結月は目元を緩めながら、カウンター横のショーケースに目をやった。
そこには、彼女が作った焼き菓子が並んでいる。
どれも素朴で、派手さはない。けれど、ひとつひとつに心を込めてつくったものだ。
「一日の癒しの時間みたいなものが、ケーキを通してお届けできたらいいんですけどね……」
陽翔はスケッチブックを見つめながら、結月の優しい味がするケーキを思い浮かべていた。