重力圏外のプロポーズ、軌道修正は不可能です~宇宙飛行士は恋に不器用~

 結月は、ブレンドコーヒーとレモンケーキを陽翔のテーブルに置いた。

「じゃあ、今日のモデルはこのケーキにしようかな」
「えっ?」
「レモンケーキ。結月ちゃんの気持ちが詰まってる気がするからね」
「……それ、酸っぱいって意味ですか?」
「いやいや、爽やかって意味だよ。たぶん」
「“たぶん”って何ですか、“たぶん”って」

 結月は思わず笑ってしまった。
 陽翔のこういうところが、少しだけ救いになる。

(静かに生きていたい――そう思っていた。もう、誰かに期待したり、傷ついたりするのはこりごりだから。
 でも心の奥底では、まだどこかで『もう一度』を願っている自分がいる気がして、少しだけ怖い)

(誰かが自分の作ったものを見て、笑顔になってくれる。それだけで、今日もここにいていいと思える)

 カフェの扉が、また小さく鳴った。
 昼に向けて、少しずつ店内が賑わい始める。

 結月はエプロンの裾を整え、笑顔を浮かべて来客の元へ向かう。

(この日常がずっと続けばいい。そう願っていた——この時までは)

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