青に溶ける、きみ。
晴海がゆっくり顔を上げる。伏せられていた視線がこちらに向いた瞬間、また心臓が大きく跳ねた。
「……うん」
「……ふ、ふたり、で」
確認するみたいに自分で言って、途端に顔へ熱が集まっていく。
耳まで熱い。絶対赤い。もう今すぐどこかへ逃げたいのに、それ以上に、嬉しくて仕方なかった。
晴海はそんな私を見ながら、少しだけ目を細めた。それから教室のほうへちらりと視線を向けて、口元に人差し指を当てる。
「内緒、ね」
「……!」
その仕草が、ずるいと思った。
さっきまでどこか落ち着かなさそうだったくせに、今度は少し笑っている。柔らかく細められた目が、夏の陽射しを映してきらきらしていた。
そんな顔、反則だ。ドク、ドク、と心臓が暴れる。
うるさい。絶対聞こえてる。
落ち着け、落ち着けって何度も言い聞かせるのに、全然静かになってくれない。
このままじゃ放課後まで持たない。まだ何も始まってないのに。
私と晴海、ふたりきり。ただ勉強するだけ。それだけのはずなのに、“ふたり”という言葉だけが胸の奥で熱を持っていた。
ここはただの廊下で、ロッカー前で、周りには普通に人がいる。友達同士で笑い合う声も、教室から聞こえる机を引く音も、窓の外で鳴いている蝉の声も、ちゃんと耳に入っているはずなのに。
不思議なくらい、目の前の晴海しか見えなかった。
白いシャツの袖。少し長めの睫毛。光を受けた横顔。夏の匂い。全部が眩しくて、胸の奥に静かに沈んでいく。
たぶん今、世界でいちばん大事な放課後が始まろうとしていた。