青に溶ける、きみ。
名前を呼ばれて、肩がびくっと揺れる。
顔を上げると、晴海はもう鞄を肩にかけて立っていた。
窓から差し込む夕方前の光が、白いシャツの輪郭を柔らかく滲ませている。
教室でする、という選択肢は最初からないらしい。
……まあ、そりゃそうか。周りを見れば、教室にはまだたくさん人が残っている。参考書を広げ始める人、友達同士で問題を出し合う人、コンビニに行こうと騒いでいる男子たち。
こんな場所で晴海と向かい合っていたら、たぶん私は問題文ひとつも頭に入らない。
「どこか空いてる場所あるかな……」
「図書室の奥のほうのテーブル、いつも空いてるイメージなんだけど。行ってみる?」
穏やかな声。押しつけるわけでもなく、でも自然に私を誘導するみたいな話し方。私は小さく頷いた。
「……うん」
その返事を聞いて、晴海が、じゃ、行こ、と笑う。たったそれだけなのに、胸の奥が炭酸みたいにしゅわっと弾けた。
晴海は机の間を器用に抜けながら歩き出す。
私は少し遅れて、その背中を追いかけた。
広い肩。
制服の背中にできた小さなしわ。
窓から吹き込む風に揺れる髪。
視界に入るだけで落ち着かなくなる。さすが晴海だ、と思う。