ヤンデレ腹黒な仮面作家は激重な執着溺愛を隠さない
「夫っていうのは……?」
「違います」
 宏にかぶせて否定すると、史弥は口元をムッと歪めた。

「昨日、プロポーズにOKくれただろ」
「小説のセリフ!」
 彼への文句に続いて店長にも苦情を入れようとしたのだが、遮るように宏のスマホが鳴る。

「ごめん、あとはよろしく」
「店長~!」
 すがるように声をかけるが、宏は歩きながらスマホに出て、店の奥に消える。
 残された耀理は顔をひきつらせて史弥を見る。彼はにたりと笑みを浮かべてにらむようにこちらを見下ろしている。

「ああ、昨日もかわいかったけど今日もかわいい。ひとつ結びがこんなに似合う女性は世界であなたひとりだけだ」
 半ばうっとりと呟かれた言葉に、耀理はかちんと来た。
 褒められているのに、バカにされたようにしか思えない。

 なぜこんな理不尽な目に遭わなくてはならないのか。暴言を吐かれ、結婚だのなんだのと嫌がらせをされ、職場にまで押しかけられて抱き付かれて。取材のためとは言っているが、絶対に嘘に違いない。
 元カレといいこの男といい、どうしてこんなに勝手なのか。自分だってちゃんと意志のある人間だ、好き勝手にさせてたまるものか。
 耀理は思いっきり史弥をにらみ返した。

「今からあなたは私の下につきます。言うことはきちんと聞いてください」
 耀理はなるべくきつくなるように言った。
「もちろんだよ」
 彼の口調は軽くて、耀理は胡乱な目で彼を見た。

 彼は会社を通して現れたのだから問題があれば会社が介入するはずで、彼だってそんなトラブルは望まないはずで、作家は人気商売なのだから不評につながることはしない……はずだ。
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