ヤンデレ腹黒な仮面作家は激重な執着溺愛を隠さない
「準備できたね。名前にちなんで選んだけど、良く似合ってる。行こうか」
「どこへ?」
「あなたが喜ぶところ」
 疑問符をたくさん浮かべながら、彼に手を引かれて部屋を出て一階に降り、既に呼ばれていたハイヤーに乗る。

「店長から聞いたよ。書店を辞めるって。だけど本当に辞めたいのか?」
「本当は……辞めたくない」
 書店の仕事は好きだ。けっこうな体力仕事だが、やりがいもある。おすすめコーナーを作って本が売れたときは嬉しい。それ以上に、顔を輝かせて本を買っていくお客様を見るのがなによりもの幸せだ。

「私を助けてくれた本に恩返しをするためにも、もっともっとたくさん売りたい」
「だったら続けた方がいい」

「でも、もう退職願を出してあるの」
「これか?」
 彼は懐から出した封筒を耀理に見せる。

「どうしてあなたが持ってるの?」
「店長に無理言ってもらった。店長は悪くないからな」
 きっと彼がうまくいいくるめて受け取ったのだろう。

「もういらないね」
 彼は耀理の目の前でびりびりと破いてしまい、耀理はあっけにとられた。
 ハイヤーはやがて、郊外に向かう。窓の向こうに見えた施設に、耀理の目が丸くなった。

「あれって……」
「そう、あなたが行きたがっていた場所」
 耀理はその建物から目を離せなくて、じっと見つめる。
 降車場に着くと、ふたりはハイヤーから降りた。
< 108 / 121 >

この作品をシェア

pagetop