ヤンデレ腹黒な仮面作家は激重な執着溺愛を隠さない
「もっと高尚なもんを読めよ。これとか」
 彼が手にとったのは一時期話題になった純文学作家、天乃河静火(あまのがわ しずか)の新刊だ。十九歳で書いたデビュー作が日本で一番権威のある純文学賞である朱田川(あけたがわ)賞を獲り、期待の新星ともてはやされた。

「その作家さん、デビュー作は面白かったけど二作目からは『俺はこんなすごいこと考えてます』っていうのが透けて見えてつまんないから読みません」
「お前のレベルでは理解できないってことか」
 鼻で笑われ、耀理は負けじと言い返す。

「純文学って難解でわかりにくくしてこそみたいな人が一定数いますけど、私はそうは思いません。楽しいか楽しくないか、これは重要です」
「純文学は芸術だ。娯楽と一緒にするな!」

「それでなにが悪いんですか。人は娯楽に助けられて生きてますし、成長のきっかけにもなります。子どもがわかりやすいですよね。戦隊ものやアニメで善悪や優しさを学んだり、人生を左右するんです!」
「大袈裟な」
 嘲笑を浮かべる彼に、彼女はイラっとして溺愛小説をつきつける。

「これはいわゆるサブカルチャーだけど、日本のサブカルは世界に輸出されるすごい産業なんです!」
 続けてバッグにつけたチャームの猫を見せ付けると、一緒につけた星のパーツがちゃらちゃらと揺れた。
「キャラクターグッズや関連商品だけでも売上がすごいんです! 純文学なんて娯楽作品が売れてる恩恵で生き残ってるだけのくせに! そもそも芸術だって娯楽でしょ!」
 言い捨てて、彼女はレジに向かう。

 カッとなって言い返したものの、怒りと恐怖がないまぜとなって、心臓が破裂しそうだった。
 なんなの。いきなりあんなこと言ってくるなんて通り魔みたい。
 震える手で商品をレジカウンターに置いてから振り返ると、彼はもう見当たらなくて、ほっとした。

 今日はすぐに帰ろう。
 純文学をバカにするつもりはないのに、売り言葉に買い言葉で罵倒してしまった。ごめんなさい、純文学作家と読者のみなさん。
 内心で謝りつつ、店を出た彼女は寄り道をせずまっすぐに帰路についた。
< 2 / 121 >

この作品をシェア

pagetop