ヤンデレ腹黒な仮面作家は激重な執着溺愛を隠さない
 その背が本棚の向こうに消えると、ようやく耀理は息をつくことができた。
「悪い。今日に限って出勤できなくて」
 そう言う史弥の声が優しくて、耀理は嬉しく思いながら首をふる。

「ううん……助かった」
 本当は自分で反論するべきだ。なのになにも言えなかった。自分が言うべきことを、彼が言ってくれた。
 しょんぼりしている耀理の背を、史弥の手が優しく撫でる。

「もうあと十分で店も終わりだな。食事はまだだろ? 閉店作業が終わったら一緒に食べに行こう」
「……だったら私におごらせて」

「今日はもう上の階のレストランを予約してあるから、また今度な。先に行ってるから」
 無国籍料理と銘打った店の名前を告げて、ぽんぽん、と軽く頭を叩いてから彼はエレベーターに向かう。

「先に予約してあるとか……断られること考えてないんだ」
 耀理はその背の高い後ろ姿を、胸を押さえて見送った。
 素直に「ありがとう」と言えなかった自分をじれったく思いながら。



 耀理は仕事を終えると、急いで上階の店に行った。
 入口で名前を告げると、奥の個室へと案内される。

「お待たせ」
「待ってないよ。原稿やってたから」
 スマホを手に、史弥は言う。

「スマホで小説を書いてるの? すごいね」
「最終的にはパソコンを使うけどね」
 耀理を案内してきた店員に史弥が会釈をすると、店員はすぐに食前酒を運んできた。
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