ヤンデレ腹黒な仮面作家は激重な執着溺愛を隠さない
 作者が男性だとは思わなかった。あんなに繊細な文章で女性の心理を熟知した作品を書けるのだからてっきり女性だと思っていた。

 仮面をつけているし、性別は公表されていないから、男性だったとSNSに書くのはマナー違反だろう。サイン会のことはどの程度は書いていいのだろうか。ああ、すごく書きたい。背が高くて細身で、絶対に仮面の下はイケメンに違いない。
 彼の後ろには担当と思われる男性編集者が立って様子を見守っている。

「お待たせしました、サイン会を始めさせていただきます」
 店長の声でスタートが切られ、列にならぶ人たちの熱がさらに上がった気がした。

 ひとり、またひとりとサインを貰って喜びながら立ち去るのを見て、耀理の心臓が次第に鼓動を早めていく。
 心臓の自己主張を深呼吸で落ち着けようとするものの、興奮が収まることはない。

 前に立っていた女性がサインをもらい、歓喜とともに礼を告げて一歩をズレた。
 耀理は意気揚々と一歩を進める。

「お願いします!」
 両手で本を差し出したときだった。

 がた、と音を立てて彼が立ち上がり、耀理はきょとんと彼を見た。
 仮面越しの瞳は大きく見開かれ、口がなにかを言いたげに開いて、しかしなにも言わずに閉じられる。
 彼は気ぜわしくテーブルをぐるりと回って彼女の前に立った。かと思うとさっと跪き、彼女の左手を取る。

 なにが起きたの?
 おろおろする耀理にかまわず、彼は彼女を見上げて言った。
「ずっとあなたを探していました。俺と結婚してください」

 一瞬、なにを言われたのかわからなかった。
 周囲を見ると、美帆はあっけにとられていて、男性編集者はスマホのカメラをこちらに向けている。
 サインをもらったあとに帰らずに残っていたファンも、通りすがりのお客さんもなにごとかと自分を見ている。
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