ヤンデレ腹黒な仮面作家は激重な執着溺愛を隠さない
「あ……知らないなら、別に大丈夫かも」
「そこまで言ったなら教えてくださいよ」
 耀理は食い下がった。幸いにも今は客が途切れている。

「驚かないでね。月見猫千夜さんってなんと朱田川賞受賞の天乃河静火さんと同一人物だったの!」
「それは知ってる」
 耀理の答えに、美帆はがっかりした顔を見せた。

「なーんだ。じゃあ、純文学が書けなくなったからエンタメに転向したんだって批判されてるのも知ってるのね」
「それは初耳。本当ですか?」
 耀理の返答に、美帆は顔をひきつらせた。

「昨日、そう書いてあるWeb版週刊誌がバズってて」
 耀理が真っ先に疑ったのは慎一だ。彼が史弥に復讐するためになにかを週刊誌に言ったのだろうか。だが、史弥が作家であることはわかっていないはず。
 次に疑ったのは紀香だ。が、彼女は史弥が作家だと知っていてもペンネームも知らない。探し出せるとは思えない。

 史弥が心配になったが、彼は欠勤の連絡が店長に来ていて会えず、なにも聞けなかった。
 大丈夫だろうか。
 不安になった瞬間、過去の自分の発言が頭をかすめる。

『私みたいな庶民は大作家様とは釣り合わないって』
 週刊誌に話題が載るような人は別世界の人間だとずっと思っていた。自分のような庶民には縁のない世界なのだと。
 彼はやはり、自分とは遠い世界にいる人間なのだと、こんな形で体感させられるとは、予想もしていなかった。
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