after7は笑えない
「あ、成世ちゃん!そういえば今度SE部門から営業に転任してくる子がいるんだけど、その子も春闘大会くるらしいよ?」
マリア先輩が、後ろから私の顔を覗き込んできた。
明るいキャラとは裏腹に、色香を放つ目元が麗しい。この人のように自然と表情を変えられていたら、処女をいつ断とうか、なんて悩みもなかったことだろう。
処女卒業のことを引きずってるみたいでやだやだ。
「SEから?…SEなんて技術職じゃないですか。」
「ねえ、びっくりだよね?!そんなに営業がやりたかったのかなあ。」
「逆じゃないですか?SEが嫌だったんじゃないですか?」
「でもその子も販売士の試験、満点だったらしいよ!」
「………へえ」
「成世ちゃんと同期らしいけど、知ってる?」
マリア先輩が社内報の転任者箇所を指し示す。能面の私が葬儀写真のように写っている。
それはさておき、その斜め下に載っている白黒写真は、ゆるいパーマのマッシュヘアに丸眼鏡をかけている男性社員だ。前髪も長めで、目元がよく見えない。
写真の下にはこう記されていた。
“七三倉《なみくら》 晩《ばん》”
…ば…バン……
笑いそうになるのをこらえる。
「いえ知りません。…なんだかこの名前、ホストっぽいですね。」
「だあよねえ!なんかバンってよりも、ヴァンって感じじゃない?!」
その通りなので、吹き出しそうなのを咳払いで誤魔化した。ナwミwクwラwヴァwンw
「どっちも試験満点だし、成世ちゃんとはライバルになりそうだよねえ。」
「さあ、どうでしょう?試験の成績が営業成績に比例するとは限りません。」
「あっれー早くもライバル意識?!それよりももっと女子力高めていきなよお。」
「…その女子力って、人生を100だとしたらどれくらい必要なものなんですか?」
「んー。55!やっぱ56!」
マリア先輩。女子力なんて高めなくてもキャバクラでNo.1になれるんですよ。
経済と政治の話題にもついていけるスキルと相槌のタイミング、プライドもそこそこの、隙があるようでない女を演じるのは、勉強すればなんとでもなるもんなんです。学力57、生活力40、女子力3の女は語る。
ただし、恋愛はどうにもならない。
恋愛に溺れてしまえば、一気に地位と名誉を失うのだから。科学の力でも証明できない恋愛というヤツは実にリスキーだ。
私の姉がそれを教えてくれた。私がついこの間まで処女だったのも、姉の反面教師のせいでもあるのだ。