after7は笑えない

野球少年だった池駒旭陽は、高校から不真面目な野球少年となってしまった。中学までは有力選手だったのに。


スポーツに強い高校に上がれば、当然のように上には上の奴らが現れて。厳しい野球の世界が、ヒシヒシと旭陽のプライドにのしかかった。


それでも推薦だからすぐには辞められず、不良落ちしそうなギリギリのラインで、池駒はなんとか野球部に在籍していた。


だから勉強では、相当手を煩わせていた。同じ高校ではなかったけれど、私が旭陽の夏休みの宿題を手伝ったこともある。


お姉ちゃんのことを散々いっておいてなんだけど、自分も旭陽に惚れた弱味で、彼の勉強を手伝っていたのだ。

 
そんな旭陽は昔、お姉ちゃんのことが好きだった。

 
「秋奈は相変わらず、能面そうで安定を保ってる感じだな。」

「それ、どういう意味?」

「昔から特に変わってなくて安心って意味。」


自分にはない、旭陽の眩しい表情。思い切り笑って、泣いて、怒って。いつだって全力で、迷いのない旭陽の表情が大好きだった。


でも告白するまでに至らず、そんな儚い恋のメロディは散ってしまったのだけれど。


旭陽が、お姉ちゃんに告白している現場を見てしまったのだ。


あの時、旭陽は中学3年生で、ちょうど高校のスポーツ推薦が決まった頃だった。


『す、好きです!菜津美さん!』


その頃お姉ちゃんは大学生で、すでにクズ男に沼りつつあったのだ。だから、当然旭陽は撃沈して。きっとそのこともあって、高校でグレ始めたのだと思う。  


そんな旭陽を見ているのが苦しかった。


自分だって失恋して悲しいはずなのに。なんでか、旭陽の想いを考える方が辛かった。好きな人が失恋しているなんて、自分のことよりもずっと重大に思えてしまって。


だからそれからも、旭陽のお姉ちゃんに対する恋心を、私は応援し続けたのだ。


1位を取りに行きたいはずの私なのに。恋だけは違った。無理だった。


旭陽の浅黒い肌。今でも太陽と夏の匂いに包まれていそう。テーブルに置かれたやたら大きな手は、昔よりも骨ばっているように感じた。


深夜に見た、暗闇でのキラ君の肌とは全然違う。綺麗すぎるキラ君の手は、私に散々触れておきながら、旭陽ほどの生々しさはなかった。



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