after7は笑えない
「あれ?マジ??秋奈と、菜津美さんじゃない?!」
ふと見れば、そこには幼稚園から幼馴染である池駒旭陽《いけごまあさひ》(27)が立っていた。
久々に実家の近所に帰ってきたので、彼と会うのはもう何年ぶりだろう。
「旭陽くん?!うそ。ベリーショートが似合いすぎる。」
「菜津美さんも!昔は髪、長かったですよね?!」
「え?!ま、まあねえ。」
スポーツマンだった旭陽。筋肉の引き締まった細身のイメージだったけれど、昔よりもガタイが良くなっている。要約すればかっこいい。
旭陽の、姉を見る目が、昔のそれとは違う。
時間という流れを濃縮すれば、リセットボタンになる。でもそれを水で薄めてしまえば、また元に戻る可能性もあるということを忘れてはいけない。
「……お姉ちゃんね、昔付き合ってた美容師に試し切りされてね。それからずっとショートヘアなの。」
「ちょ、っもう秋奈!その話はいいってば!!」
お姉ちゃんが焦るように、私の話を止めに入る。でもお姉ちゃんの借金は私がカタをつけたのだ。これくらいの昔話は許されるはず。
当時は美容師を目指していた彼氏にハマっていた姉。
専門学校に通っていた彼氏にカットモデルを頼まれたお姉ちゃんは、快く承諾したのだが。個性的なアシンメトリーな髪型にされてしまい、いくら美女でもあれは酷かった。
適当に、頭皮の皮膚病になったと理由をつけ、美容室でショートヘアにしてきたのだ。
それからというもの、ずっとショートにしている。
その武勇伝を語られるのを恐れたお姉ちゃんが、その場をそそくさと退散した。
残された私と旭陽《あさひ》は、『ロンドン棟』で積もる話に花を咲かせた。
「へえ〜ALISSなんて超大手じゃん!よく派遣から社員になれたな?さすがじゃん。」
「旭陽こそ。央海倉庫だなんて業界最大手じゃない?」
「でも俺、物流担当だから現場だしさあ。昼夜逆転なんてしょっちゅうだし、体力勝負の世界だよ。」
その癖、全然疲れた顔なんてみせない旭陽。昔は野球に打ち込んでいたこともあってか、上手に焼けた肌をしている。なにせ艶がいい。ハリもある。
昔もアラサーとなった今でも、旭陽の独特な色気は健在だ。
Tシャツに浮き出る分厚い胸板。鎖骨のミゾのえぐれ具合が好き。えろいな、私の思考。
「そういえば旭陽、なんか丸くなったよね。昔ほど尖ってない気がする。」
「いつの話だよ?挫折した野球少年がグレたのなんて、ほんの一瞬だったし。」
「補習も追試も追追試も、誰のお陰で乗り越えたと思ってるの?」
「へえへえ。秋奈様のお陰ですな。」
白い歯を見せて笑う旭陽。少年の色を残した、いい大人になっている。