愛が重いNo.1ホストに追われています。

午前10時20分のフロア。外回りですでにいない営業も多い中、まばらに残る社員たちの視線をいっせいに集めてしまった。


私と七三倉の2人が。


「……成世ちゃん??なんかピリピリしてる?チョコバット、食べる?」


隣のマリア先輩の引き出しには、大量のチョコバットが入っていて、私に1本差し出してくれる。


「あ、ありがとう、ございます。」

「ヴァンくんも食べる〜?」

「いただきます。今度お返しに白いチョコバット一袋持ってきますね。」

「ごめーん、あたしホワイトチョコは苦手なんだあ。」


どうでもいいやり取りを目の前に、今自分、何をやろうとしていたんだっけと軽い記憶障害を辿る。


左手には名刺入れ、右手にはチョコバット。とりあえず、チョコバット食べて落ち着くべきだろうか。



デスクにはバラバラに撒かれた名刺が広がっていて、その中の1枚を七三倉が取った。


「嘴開《はしびろ》大学って、すんごい芸能人がいるとこじゃない?」

「は……。そうなの?」

「野口さんが言ってたわ。風音星来だっけ?なんか野口さんのタイプらしいよ。」   

「……へえ」  
 

なにそのゴミみたいな情報。野口さんのタイプ知ったところでそのまま廃棄物処理場へ直行なんですけど。
     
   
チョコバットを口に咥えるマリア先輩が、「あたひもどうでもいい野口くん情報もってる」と、椅子に座ったまま、タイトスカートの股を開きながら移動してきた。


私が慌ててマリア先輩の膝を両手で閉じれば、七三倉が、「エロさ10段階中の2です。」と評価した。 



「なんか嘴開《はしびろ》大学の職員さんに、野口くんの元カノがいるらしいよ!」


 
「へえ。マジっすか。」 

「(えっ、意外にもまともな爆弾情報?)」


呆けたように私と七三倉が静止していれば、マリア先輩が他の社員に呼ばれて、チョコバットを咥えたまま行ってしまった。


とりあえず嘴開大学の商談にこぎ着けるためにもムービング!動け動け成世秋奈。まずは連絡入れて訪問して商品を絞ったカタログ作成して……


自分の使い込まれたキャメル革の名刺入れに、名刺を一枚一枚会社名を確認しながら戻していく。


私は仕事をレシピ通り、滞りなく進めていきたいのに。七三倉晩は今日も邪魔をしてくるのだ。


「名刺入れって相手先にも見られるもんだし、そんなヨレヨレな古っくさい名刺入れ使ってたら成世サンの価値も下がるんじゃないですかねえ?」

「……うるさいって。」

「ちなみに俺はセリーヌ使ってる。」

「聞いてないし男がセリーヌって初めて聞いたんだけど。」

「貰ったんじゃないよ?ちゃんと自分の金で買ったんだし。」

「知らないって。どうでもいいから仕事の邪魔しないで下さい七三倉さん。」

    
今日は午後から大事な商談があるのだ。七三倉という名前の男と胡蝶蘭があるオフィスで北北東を向いて話していたら風水的にもアウトだ。


でもあさっては旭陽と飲む約束をしている。だからあさっての方向を向いて我慢我慢。夜はアロマ焚いて、旭陽と会えるのを楽しみに生きていればどんなハードルも乗り越えられる!はいさすが成世秋奈! 




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