妹に代わり泉に身を投げた私、湖底の街で愛を知る 〜虐げられた私が幸せを築くまで〜
 不思議そうに口を開いた私の言葉に、アダン様は微動だにしない。
 彼のそんな様子に珍しいな……と思ったが、私はアダン様が話し始めるまで彼を見つめた。しばらくして彼が顔を上げると、視線がぶつかる。そしてアダン様はそのまま、形のいい唇を開いた。

「詳しく聞いてもいいだろうか?」
「あ、はい。えっと、うまく言えるかはわかりませんが……この宝石には、きっとアダン様の魔力が込められていますよね?」

 先ほどイグナスさんに出会う前に、アダン様が手を触れていた石。そこから心地の良い魔力を感じられたからだ。アダン様は驚きつつも、縦に頷く。

「アダン様の魔力は晴れた日の空のような……美しい水色のモヤをまとっています。そしてイグナスさんの商品も見たのですが……あの……暗雲が立ち込めた時のような……灰色から黒色のモヤをまとっていたのです。それに意味があるのかと思いまして」

 言い切って気づく。これではイグナスさんの商品を否定しているように見えないか、と。
 慌てて言葉を続けようとするが、アダン様は考え込み始めている。彼の思考を邪魔しないようにと静かに座っていると、彼は黙っていたことに気がついたのか、私の肩に手を乗せた。

「すまない、私には分からない。が……君は何か思うところがあるのでは?」

 言い当てられて私は、ゆっくりと頷く。
 イグナスさんの商品の魔力は、なんとなく居心地が悪く感じていたのだ。

「君の好きなようにするといい。別にそれで私が何か言うことはないからな」
「……ありがとうございます!」
 
 アダン様の言葉で背中が押されたように思った私は、自然と微笑んでいた。
 

 それからあっという間に日は過ぎていく。
 女神祭に近づくにつれ私の仕事も多くなるが、食事と睡眠をしっかりとっているからだろうか、以前ほど疲れていないように思う。その間もノアやアダン様との交流も欠かさない。一度多忙で昼食が流れてしまった時、レナートさんがこう話していたのだ。

「やはり昼食の休憩時間は必要ですね……効率が違います」

 そう言われて、アダン様は強制的に昼食の時間を作られていたけれど、私は少しでも力になれているのだと思って、非常に嬉しく思った。
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