妹に代わり泉に身を投げた私、湖底の街で愛を知る 〜虐げられた私が幸せを築くまで〜
 けれども、そう易々とことは運ばない。アダン様は彼女の行動を読んでいたのか、数歩下がった。お陰でリリスがアダン様に触れることはなかったけれど……私の心にはしこりが残る。
 それと同時に、リリスは顔を上げてアダン様を下から覗き込んだ次の瞬間、彼はまるで電流を浴びたかのように全身を震わせた。

「つーかまえた♪」

 リリスの楽しげな声が響く。
 私はすぐさま彼の異変に気がつき、彼に触れる。けれども、アダン様はその場から動くことすらできない。身体は言わずもがな……口すらも動かすことができないようだ。視線だけは申し訳なさそうに動いている。
 
 私はリリスへと顔を向けると、彼女の手には一本の小さな杖が。
 それは真っ黒な靄に包まれている。

「引っかかったわね? これは身体の自由を奪う魔術よ? 商人からもらったの。防御魔術でさえ貫通する魔術として……ね? 商人が言っていたわ。この街の魔術では、この魔術は防ぐこともできないし、解除できないであろうって。実際、ほら、解除できていないじゃない?」
 
 アダン様を再度見ても、やはり硬直したままである。
 まるで悪魔のような笑みでアダン様を舐め回すように見つめるリリス。そんな彼女に慄いた私は、思わずつぶやいていた。

「なんでこんなことを……」

 私の声にリリスは心底不思議そうな表情で話し始める。

「こんな素敵な場所へと来られると知っていたら、身を投げたのに……ねぇ、なんでエーヴァ、お前が幸せになっているの?」

 最初は鼻にかかった甘ったるい調子で話していたリリスの声は、みるみるうちに低くなっていく。エーヴァに注がれる視線も鋭く冷たい。
 まるで感情が抜け落ちたかのように……リリスは、声の抑揚なく話を続けた。
 
「なんでお父様やお母様に愛されなかったお前が、ここで幸せを享受しているのかしら? 幸せになるのは、私だけでいいのよ? お前にそんな資格はないのよ?」

 何も言わない私に気をよくしたのか、リリスは私の元へと詰めてくる。

「ねえ、その場所は私のものよ? よこしなさい?」

 私と視線が交差する。リリスは笑いをこらえようとしたが、できなかったのか高笑いをし始めた。後ろにいる公爵と継母の二人ですら、まるでそれが「正しいこと」であるかのように、頷いている。
 あれだけ私を邪険にしていた者たちが、何故今更私を必要とするのか……それが私には分からなかった。
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