妹に代わり泉に身を投げた私、湖底の街で愛を知る 〜虐げられた私が幸せを築くまで〜
「……リリス」

 私は自然と彼女の名前を呼んでいたが、リリスはまるで私など存在しないかのように無視をしているようだ。
 アダン様がリリスを見る目に、嫌悪が混じり始めた。しかしリリスはそれが愉快だと言わんばかりに、口角を上げる。
 
「第二王子殿下の婚約は解消されましたわ。今回の件がバレちゃいましたので。ね、かわいそうでしょ?」

 私は鼻を鳴らすリリスに困惑していた。
 だって、当たり前ではないか。聖務者として指名されていたのはリリスであるにもかかわらず、神託を破って私を生贄にしたのだ。それが判明したら、普通はそうなるだろう。

 私が口を噤んでいるからか、リリスだけでなく後ろの二人までもが話に入り始めた。
 
「お前さえいれば、爵位は戻るんだ。私たちのために、地上に帰るだろう?」
「ええ、隣の彼はリリスに任せて、私たちと一緒に帰って殿下と婚約しましょう? ここ以上に幸せな未来が待っているはずよ?」

 今まで目を吊り上げ、私に暴言暴力を振って嘲笑っていた夫人。彼女までもが、顔に笑みをたたえている。二人は一歩、また一歩私に向かって歩き始めた。

 近づく公爵の様子を見て、私はふと思い出す。腕輪の存在に。
 少しでも時間稼ぎを……と思い、私は右手を顔の前に広げ、腕輪に魔力を込めた。

 手のひらからいくつも現れる水泡。そして何個か作り出してから、公爵に向けて放つが……公爵の目の前で水泡は消えていく。
 
「な……なんで……?」
「ほう、お前は魔術を防ぐ道具を知らないのか。やはりお前は愚かな娘だ。俺がまた躾けてやろう、来い!」

 躾け、という言葉に私は肩を震わせる。そして公爵から逃げようとして、足が震えていることに気がつく。それでもとにかく足を動かそうと、後ずさるが……力が入らず地面にへたり込んでしまう。

 それを見た公爵は、力の抜けた私を束縛できると思ったのか……私に手を伸ばし――
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