妹に代わり泉に身を投げた私、湖底の街で愛を知る 〜虐げられた私が幸せを築くまで〜
 その瞬間、とめどなく流れていた涙が止まった。
 目尻に溜まっていた涙が全て頬を伝っていくと……目前には、アダン様。

 その端正なお顔の近さに息を呑む。
 私はアダン様に抱きしめられていたようだ。その温もりも私の思考を溶かしていく。

「な……なんで……」

 気づけば、私の口から無意識に言葉が出ていた。後々考えれば失礼な物言いだと思うが、今の私にはそこまで気にする余裕がない。
 そんな私を他所に、アダン様は真剣な表情で私を見据えた。

「君は強い。私なんかよりもずっと……」

 アダン様から紡がれる言葉が耳に入っては、反対から抜けていく。

「自分の殻に閉じこもることなく、自らの足で立って歩く姿は……私の目では輝いて見えた。その姿が美しい、と思った」

 そして、一呼吸置いたアダン様が私を見据える。

「私が、隣で……そんなエーヴァを支えたい、と思ったんだ」
「あ……アダン、様……」
 
 熱の篭った瞳。
 穏やかな、けれども私に聞かせようとする力強い声色。
 私を逃さない、とでも言わんばかりに背中へと回されている腕。

 ――全てが私を魅了する。

 そして熱に浮かされた私は、知らず知らずのうちに、口を開いていた。

「わた……私も、お慕い、して、おり、ます……」

 自分の言葉とは思えないほど、弱々しい声。まるで別の誰かが言葉にしたように聞こえる。無意識とはいえ、彼の愛に応えた形になってしまった。そう気づいた私の心音は、どんどん早く、どんどん激しくなっていく。

 私の言葉を聞いて、アダン様は目を丸くする。
 その時間がとても長く感じたのは、気のせいではないだろう。私が彼の一挙一動を見続けていると、言葉を呑み込んだアダン様が……破顔した。

「……嬉しいよ、エーヴァ」

 彼の笑顔に衝撃を受ける。
 我を忘れて見惚れている私の頬に、アダン様の手が触れる。まるで涙の痕を拭うような仕草。

 されるがままになっている私は心ここにあらず。気がつけば段々とアダン様の顔が近づき――
 
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