妹に代わり泉に身を投げた私、湖底の街で愛を知る 〜虐げられた私が幸せを築くまで〜
 それから数日。
 歩いて二日ほどは支えられながら歩いていた私であったが、それ以降は一人で問題なく歩けるようになっていた。ただ、王宮は広く道を覚えていない私のために、いつもイルゼさんは散歩のお供をしてくれる。
 
 最近はアダン様もお忙しいのか、私の元に顔を出す機会が減った。
 そのことに無意識ではあるが寂しさを覚えていたのかもしれない。レナートさんが私の部屋へ訪れた時、思わずアダン様の様子を訊ねる言葉が口を突いて出ていた。

 最初は目を丸くして私を見るレナートさんだったが、私の表情で何かを察したのか……イルゼさんへと顔を向けた。

「イルゼ、あなたは確か執務室に昼食を運ぶ係でもありましたね?」
「ええ、そうです」

 イルゼさん曰く……私の部屋の途中に執務室があるらしい。そのため、私の食事を運ぶついでに、執務室へと食事を届けているのだとか。むしろ私の方を「ついで」にしてほしい……そう思ったけれど、そこは「私の最優先はエーヴァちゃんなので」と言われてしまった。
 胸を張って誇らしそうに話すイルゼさんを横目に、レナートさんは肩をすくめる。
 
「話を戻しますが……その時にエーヴァさんも連れてくると良いでしょう。そうすれば、少しはお話もできるでしょうから」
「ありがとうございます……」
 
 この機会にアダン様へと改めてお礼を言わなければ。
 私はここに来てから、アダン様によくしてもらっているけれど……私は何を返せているのだろうか。

『お前は生きているだけで、邪魔だ!』

 一瞬脳裏をかすめたのは、公爵の言葉。私は役に立っていない……いや、何もない私に価値などあるはずがない。今でさえ、ただ生きるための食事や部屋を消費するだけの女なのだ。
 心のどこかで私は他人から必要とされたい、と思っているのだろう。けれども、私はどうしたら何ものにも代えがたい存在になれるのかしら。

 私の心の中にある闇の部分が、少しだけ顔を出したような気がした。
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