妹に代わり泉に身を投げた私、湖底の街で愛を知る 〜虐げられた私が幸せを築くまで〜
 翌日、イルゼさんと共に私はアダン様の元へと訪れた。
 最初は私が入ってきたことに驚いたのだろう、まばたきを何度か繰り返していた彼だったが、私が改めて今までのお礼を述べると来た理由に納得したらしい。私はイルゼさんから事前にお墨付きをもらっていた紅茶を淹れる。私が今できること、と言えばこれくらいだからだ。

「よろしければ……どうぞ」

 私は淹れ終えた紅茶をアダン様の目の前に置く。そして、別の机に座っていたレナートさんにも感謝を込めて紅茶を差し出した。するとアダン様は差し出した紅茶と私の顔を何度か交互に見ており、少々挙動不審だ。
 もしかしたら私の紅茶が不味そうに見えたのだろうか……と思い、イルゼさんに改めて紅茶を淹れてもらうように提案しようとしたのだが、その前に彼がつぶやいた。

「君は……紅茶を淹れられるのか……?」
「はい」
 
 私が頷くと、アダン様の目が一瞬大きく見開く。
 その後すぐに紅茶へと視線が戻り、彼がティーカップへと手を伸ばした。お口に合うだろうか……と彼の一挙一動を見つめてしまう。アダン様はそんな私の視線をもろともせず、優雅に紅茶へと口付けた。
 彼の喉仏がゆっくりと動く。そしてアダン様はティーカップに残っている紅茶を見て、声が漏れた。

「うまい……」

 初めて言われた言葉に私は顔が赤くなる。いつ淹れても『不味い』と言われて捨てられていた私の紅茶を……飲んでくれる人がいることに胸が温かくなった。心なしか、アダン様の口角が少し上がっているような……いや、それは私の願望ね。
 紅茶を半分ほど飲み終えたアダン様は、ゆっくりと向き直る。そして私と視線を合わせてから言葉を紡いだ。

「また……淹れてくれるだろうか」
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