妹に代わり泉に身を投げた私、湖底の街で愛を知る 〜虐げられた私が幸せを築くまで〜
 イグナスさんが出してくる商品は華やかで見事な物ばかりだった。
 もしここに継母や異母妹がいたら、『全て欲しい』と言っているだろう。ただ、私は申し訳ないのだけれど心惹かれる物はなかった。一番気に入っている物が、もう胸元にあるからだと思う。

 最初は「如何ですか?」と勧めてくるイグナスさん。けれども、私の好みではないことを途中から察したらしい。最後の方はアダン様から貰った石よりもひとまわり程大きいくらいの、控えめな商品を鞄から出し始める。
 その中で幾つか気になる商品はあったけれど、これ以上購入するわけにはいかない。そう考えた私は、アダン様に相談させてくださいと告げる。

 するとイグナスさんは瞬きを大袈裟に何度かしていた。
 どうやら私が何を考えているかを理解してくれたようで、腕を組みながら「なるほど、なるほど」と呟いている。

「エーヴァ様は謙虚な御方なのですね。次はアダン様とご一緒に見て頂きましょう」

 私は曖昧に笑う。
 ――次があるかなんて分からないのだから。

 イグナスさんは両手を組んでいた。
 その時、不意に手に嵌められている赤い指輪が目に入る。右手の中指にあるその指輪は赤い石が嵌め込まれていた。そして一瞬、怪しく光り輝く。

 私は瞬き後にもう一度彼の指輪を見るけれど、光は灯っていなかった。きっと気のせいだったのだろう。
 イグナスさんは前で組んでいた手を下ろすと、微笑んで話し始めた。

「エーヴァ様は本当に奥ゆかしくて、素晴らしい方です。アダン様にも好かれている理由が分かります」
「いえ、私なんて――」

 イグナスさんの言葉を聞いて、無自覚に両手を握りしめていた。私はそんなに好かれる人間ではない。役に立たない者は物を欲しがってはいけないのだから。
 そう、公爵家でもそうだった。妹のリリスは可愛らしい笑みで父と継母を癒していたから、公爵家に相応しい服や食事を与えられていたの。
 でも私は、リリスみたいにできなかった。だから別邸に閉じ込められて、何も与えられなかった。

「そちらの首飾りはネレイダの街で購入された物ですね。非常に腕の良い細工師がこの街にいると聞きましたが、その方の御作でしょう。非常に美しいベリルですね」
「ベリル……ですか?」

 初めて聞く名前に、私は目を瞬く。
 そんな私の様子に、イグナスさんは驚きを隠せなかったようだ。
 
「おや、ご存知なかったのですね。そちらの石は宝石で、ベリルと呼ばれております。ちなみに貝はチェリルと呼ばれていますね。これに関しては――」
 
 イグナスさんの声が段々と遠くなっていく。彼の声は届いているけれど……右から左へと抜けていく。頭に残らない。私の頭の中は既に、申し訳なさで一杯だったからだ。

 私にこのような首飾りは似合わない。返さなくては……そんな想いが頭の中を駆け巡る。
 アダン様には私なんかより、お似合いの女性がいるはず。私がこれを受け取って良い立場ではない……。

 いただいた首飾りをギュッと握りしめる。心の中では、返したくないという自分と、返さなくてはと主張する自分が戦っていた。
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