妹に代わり泉に身を投げた私、湖底の街で愛を知る 〜虐げられた私が幸せを築くまで〜
 あの時、私は誰にも気にかけられていないと思っていた。私が居なくなったところで、誰も見ていないだろうと。

 ――けど、違ったのだ。

 ノアとアダン様の表情を見れば分かる。二人は私を案じていた。
 私は恐怖していたのだ。
 最終的に見捨てられて家族のような態度になるのではないか……と。それならば、私は一人でいるべきなのだ……と。何故かあの時は、不安が胸から迫り上がってきたのだ。私はそうしなくてはいけない、と。
 謝罪したところで、ノアの傷は治らない。私はノアを抱擁する。触れた彼の身体は小刻みに震えていた。その時、アダン様と視線が交わる。アダン様は眉間に皺を刻んでいた先程とは違い、無表情だった。

「エーヴァ嬢」

 名前を呼ばれ、私の肩が跳ねた。アダン様の声は穏やかだが、どこか鋭いのは気のせいか。私は二の句が継げず、身体は固まる。また迷惑をお掛けしてしまった……そう思った私は、罵詈雑言を覚悟したその時――。

「済まなかった。君の心を慮ることができなかった」

 私はその言葉に目を見開く。アダン様が頭を下げる必要はない。私が全て悪かったのに。その言葉にノアも目に涙を溜めて話す。

「僕もごめんなさい……! エーヴァのこと気づけなくて……!」
「違います! 二人は何も悪くない! 私が全て悪いのよ……私が……」

 言葉に突いて出てしまった私の本音。甲高い声は震えていた。まるで自分のものではないような錯覚に落ちる。

「私は……アダン様やノアの隣にいて良いような人ではないわ……何も役に立たない私が……」

 私は胸前で腕を交差させ、自分の身を守るように抱き込んだ。声だけでなく手も小刻みに動いている。怖かった。ここにも私の居場所は無いような気がして。
 相手に深く踏み込んでいいのか、距離感が分からなくて。
 だって私は役に立たないのだから――。

「役に立たないなんて誰が決めた?」

 私の思考を遮るように、アダン様の声が静かに響く。

「私は君が必要だ」
「……え?」
「私は君にいてほしいと思っている」
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