妹に代わり泉に身を投げた私、湖底の街で愛を知る 〜虐げられた私が幸せを築くまで〜
 目を釣り上げて怒るお父様の姿に、私は身がすくむ。聞いたことのないような声で怒鳴りつける……いや、エーヴァがいた時は当たり前だった。あの時はエーヴァに向けられていた言動が、私に降りかかっているのだ。
 お父様から初めて受けた冷たい視線に慄いた私だったけれど、段々と苛立ってくる。だって、私だって努力しているもの。いつも飲んべだらりとしているお父様やお母様と違って、毎日王宮へ行っては王子妃教育を施されているのだから。

「なんでって? 私だって頑張ってるんだから、気晴らしくらいしたっていいでしょ!? お父様達は『頑張れ』しか言わないじゃない! 気分転換を図ったって、いいと思うの!」
「何を言っている? 王子妃教育は頑張らなくてはならないものだ! それに殿下にこのことが判明したら、お前は婚約者から下されるかもしれないんだぞ?! 私はどうなるんだ!」
「そうよ、リリス。あなたが頑張らないと、幸せになれないのよ?」

 顔を真っ赤にして怒るお父様と、目に涙を溜めて私を宥めようとするお母様。そんな二人を、私は無表情で見ていた。
 
 嘘つき。
 お父様も……お母様だって……私が生きていれば、それで幸せだって言っていたじゃない! エーヴァが居なくなって三人で暮らせたら、もっと幸せだって!
 エーヴァが居なくなって三人で暮らしているのに、なんで私が頑張らないといけないの?

 激情が彼女の胸に湧き上がってくる度に、私の顔から表情が消えていく。
 けれどもそれに気がつかないお父様やお母様は、私を自分たちの思い通りに操作したいのだろうか……怒りや涙で私を抑えつけようとする。
 その度に、私の心の中にあった理想の家族の欠片がひとつずつ……粉々に割れていく。
 
 そこで気がついた。私は分かった子の振りをすればいい、と。
 ここで反発したら、エーヴァの二の舞になりかねない。しばらくは仮面舞踏会へ行くのは止めておこう。そしてある程度二人が落ち着いたところで、策を練ればいい。
 仮面舞踏会の準備を手伝ってくれた侍女は多分私付きを外される可能性もあるが……私が涙ながらに頼めば、冷静になったお父様なら戻してくるだろう。

「お父様、お母様……ごめんなさい。少し息抜きをしたかっただけなの。もう行かないわ」

 肩を落としながら力無く告げると、興奮気味だったお父様やお母様は少しずつ落ち着いてくる。そして俯いたまま頭を下げていると、頭を撫でられた。お父様だ。

「怒ってしまってすまない。少々気が立っていたようだ」
「リリス、分かってくれて嬉しいわ……さあ、今日も一緒にお茶をしましょう?」

 にっこりと微笑むお母様を見る。あからさまにホッと一息ついたような表情。その表情が更に私の決意を固めた。結局お父様もお母様も私の気持ちなど理解してくれないのだ。
 
「美味しいお菓子も取り寄せようか」
「良いわね、あなた。少し高めでも良いかしら?」
「ああ、問題ないよ」
 
 お父様も私の機嫌を損ねないよう注意しているのか、笑いながらお母様へと許可を出す。その安堵した声を右から左へ聞き流しながら、私はどうしたら仮面舞踏会へと足を運べるのか、考え込んだ。
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