妹に代わり泉に身を投げた私、湖底の街で愛を知る 〜虐げられた私が幸せを築くまで〜
 リリスの夜遊びが判明し公爵家内が慌てていた頃、教皇は暗闇に乗じて王宮へと足を運んでいた。
 普段のような豪華な馬車ではなく、暗闇に紛れそうなくたびれている辻馬車。まさかその中に教皇がいるとは誰一人思わないであろう。
 そんな古びた馬車は王宮の裏門へと止まる。そしてその中から現れたのは、白いローブを羽織った煌びやかな服装を纏った教皇……ではなく、黒いローブに身を包んだ教皇だった。
 
 馬車にはもう一人黒いローブを身につけた者……教皇の護衛もいた。二人は馬車に降りた後、すぐに門の中へと入る。馬車は門番に見送られ、誰も乗っていないまま走り去っていく。
 その間に教皇と護衛は、案内人に連れられある場所へと向かっていた。
 
 しばらくしてある扉にたどり着く。
 教皇と護衛が足を踏み入れると、そこには見覚えのある男性達が座っていた。そう、国王陛下含めた王族の者達だ。
 数週間前、ディーデ像の目から赤い涙が垂れた……その話を聞いた後の、教皇からの密会要請。これは只事ではないと判断した国王陛下は、妻である王妃を含めた王子たち全員をこの部屋へ呼び寄せたのだ。

 教皇は夜遅くに申し訳ないと王族一家に謝罪を告げるため、軽くお辞儀をしようとしたのだが……。

「猊下、緊急事態なのだろう? 謝罪は無しで、状況を教えて欲しい」

 国王に言われた教皇は、お礼を告げて椅子へと座る。そして何故自らここに赴いたのか、何故周囲に気づかれないように考慮したのか……彼が知った真実を少しずつ話し始めた。

「女神像が血の涙を流されてから……私は運営を部下に任せ、教会が所蔵する本を改めて検分いたしました」

 国王達も教皇の言葉に首を縦に振る。
 この報告がなされた時、言伝を任された者が同じことを言っていたのだ。
 教皇はリリスが入水する前、足元の石が光ったことも気になっていた。しかも赤色。教会では赤色を「注意」という意味で使うことが多い。
 だから、石が赤色に光ったことも何か意味があったのではないか、と血の涙を見てから古文書を攫い出したのだ。

 そしてその結果――教皇はグッと唇を噛む。

「皆様は覚えていらっしゃるでしょうか……リリス嬢が泉にある岩の上に乗った時のことを。あの時、岩が光りましたね?」
「確かに光っていたな。そう言えば、その時の色は赤だったと思うが……?」

 先の読めない話に、答えながらも首を傾げる国王。彼がその言葉を告げた瞬間、教皇は両手で顔を覆った。
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