妹に代わり泉に身を投げた私、湖底の街で愛を知る 〜虐げられた私が幸せを築くまで〜
 無言の時間が延々と続くと思われたが、先に言葉を発したのは国王だった。

「よくやった。仕事へと戻れ」
「はっ」

 暗部の者は頭を下げると、音もなくその場から立ち去った。まばたきという僅かな時間で目の前から消えた暗部の行方を見守るように、国王は天井をしばらく眺めた後、教皇へと声を掛けた。

「あの警告は……正しかったのだな」

 その言葉に教皇は首を垂れる。そして手で顔を覆って懺悔をし始めた。
 もし自分がしっかりと古文書を読み解いていれば……光を放った時に、一度止めて問い詰めていれば……あの時、急がせようとする公爵家を怪しんでいれば……たらればの話が教皇の頭の中を渦巻いている。
 女神に対しての冒涜。そのように教皇は感じていた。神に名指しされた当事者はのうのうと生きていて、関係のない令嬢が死んでいる。こんなことがあっていいのだろうか。
 一人の無関係の者の死……教皇はその重責に耐えきれず、一筋の涙が床にこぼれ落ちた。そして大粒の涙が後から後から流れ出て、床に染みを作っていく。

 そんな彼の様子を見つめていた国王は、しばらくすると静かに話し始めた。

「シリウス」
「はっ」

 第二王子であるシリウス……彼はリリスの婚約者である。
 国王は毅然と振る舞いながらも、彼に厄介な者を押し付けてしまったという事実に申し訳なさを感じていた。まずはリリスとの婚約を白紙にする必要がある。

「お前はリリス嬢含めたグレイザント公爵家の者と距離を置け。王子妃教育については家庭教師を公爵家へと派遣する。もしリリス嬢がお前に会いたがっていたとしても、執務を理由に断るように」
「承知いたしました」

 淡々と言葉を発するシリウス。側から見れば、彼は何も感じていないような素振りではある。けれども、父である国王から見ると、彼は胸に激情を燻らせている。
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