妹に代わり泉に身を投げた私、湖底の街で愛を知る 〜虐げられた私が幸せを築くまで〜
 以前通い詰めていた書庫。見覚えのある本棚を抜けた先には、重厚な扉が鎮座していた。側から見れば、一人で扉を開けることなど不可能ではないか、と思うほど。
 私は見たことのない扉に頭をひねった。本を探していた時、この場所は真っ白い壁ではなかったか……不思議そうな様子が表情に出ていたのだろう。セファーさんが教えてくれた。

「ここは普段、僕の魔法で隠している場所だから。知らなくて当然だよ〜」
「この扉を見せなくする魔法もあるのですか?」
「そう。まあ、この魔法は今のところ僕しか使えないけどねぇ」

 彼の話を聞きながら、私の口から思わず声が漏れる。魔法というものは、こんなにも色々なことができるのだ、と。……夢が広がるけれど、どうやら適性があるために私に使えるかどうかは分からないらしい。
 
 扉は思った以上にすんなりと開いた。てっきり、力一杯押さなければ開かないものかと思っていたのだが……見かけによらず、扉は軽いのだとか。
 セファーさんの後に続いて入ると、その部屋も手前の書庫と同様に本棚が沢山置かれている。そして本棚が聳え立つその奥には……床が光り輝いている場所があった。
 彼は輝く床の上を歩いて、私と向かい合わせに立つと、にっこり微笑んで言う。

「エーヴァちゃん、真ん中にある円の中心に立つことはできる? あ、光っているところは踏んでいいよぉ。動かないでね!」
「わかりました」

 光る線を踏んでは良いと言われたけれど、念のため踏まないよう気をつけて歩いていく。他の箇所よりも一際大きい円が中心に描かれており、私はその円の中心に立つ。
 これで問題ないだろうか、とセファーに訊ねるため、顔を向けると……先ほどいた場所にセファーはいない。

 あたりを見回すけれど、彼はどこにも見当たらなかった。
 最初は探しに行こうかと考えたが、セファーは先ほど『動かないでね』と言っていたので、私は円の真ん中から動かず、息を潜めて様子を見る。しばらくして、どこからか彼の声が聞こえた。

「エーヴァちゃん、何が起こってもその場でじっとしていてくれる?」
「はい」
「じゃあ始めるね!」

 セファーの声と同時に、周囲の魔法陣が更に強い光を放つ。真っ白の光は段々と私の頭の天辺から足先までを呑み込んでいく。何が起きてもこの場でじっとしていなくてはならない、そう胸に刻んだ彼女は、周囲の眩しさから目を瞑った。
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