訳あって、推しに激似のクールな美容外科医と利害一致のソロ活婚をしたはずが溺愛婚になりました
何とか気を紛らせようと、脳内で寝る前のルーティンである羊を数えようとして、杏璃はハッとする。
テンパるあまり羊を数えようとしたことにではなく、行き先が気になったのだ。
運転中の央輔に、恐る恐る問い掛ける。
「……あの、どちらへ」
央輔は、ハンドルを器用に捌きつつ杏璃にチラッと視線を投げてから独り言ちるように呟いた。
「人気のない、静かな所がいいな」
行き先はまだ決まっていないようだが、人気のない、静かな場所がいいらしい。
急にそう言われてもピンとこなかった杏璃は、央輔を横目にオウム返しするしかなかった。
「……人気のない……静かな所……ですか?」
「ああ。誰にも邪魔されない、静かな所がいいな」
「……?」
すぐに応えてくれた央輔の言葉に杏璃は、ますます首を傾げるしかない。
しかし、次に返ってきた央輔からの提案により、杏璃は大いに狼狽える羽目になる。
「迷っている時間が惜しいな。この前のホテルでいいか?」
「……この前のホテル……ですか?」
そこまで口にした刹那、央輔から聞かされた言葉がパズルのようにカッチリと当て嵌まる。
そうして思い出されるのは、あの夢――氷のプリンスとの初夜である。
(『誰にも邪魔されない』『人気のない』『静かな所』で、先週の続きをしたいってこと? 出会ってまだ二度目なのに?)
そもそも夢なのだから、央輔は関係ないのだが……。杏璃は気付くことなく、見当違いな思考を巡らせる。そうしてはたと気づく。
これが普通の交際ではなく、見合いを経ての結婚を前提とした交際だということに。
ゆくゆくは結婚する相手なのだから、遅かれ早かれ、いつかは〝そういうこと〟もすることになるのだろう。
見合いとは、双方の家に最も適した相手との性格や容姿を確認し、結婚相手として適しているか見定めるものだと、晴子が言っていた。
だとするなら、いわゆる身体の相性とやらを確認するという意図があるのかもしれない。
近い将来結婚し子どもをもうけ一生を添い遂げる伴侶となるのだから。
(だ、だからって、早すぎない? でも、『迷っている時間が惜しいな』って言ってたくらいだし……)
いつだったか、男の人はエッチな気分になった場合、「マテができない」とかなんとか、同僚たちが話していた気がする。
(やっぱり、そういうことなんだ。ど、どうしよう……心の準備が……)
人知れず、脳内で大騒ぎしていた杏璃だったが、見合いの目的を思いだしオロオロし始める。
だが、ここは車内。逃げ出すことなどできない。
成り行きとはいえ、見合いを経て正式に交際することになった相手がそうしたいというのなら、受け入れるしかない。
杏璃は、切腹を言い渡された武士のような心持ちで、覚悟を決めたのだった。