訳あって、推しに激似のクールな美容外科医と利害一致のソロ活婚をしたはずが溺愛婚になりました
央輔は呆けたままの杏璃をしばし眺めてから困ったような笑みを漏らす。その表情でさえも、キラキラと輝いて見える。
あまりのまばゆさに視線を逸らそうにも、央輔に目が惹きつけられる。
何をとっても、あの時と同じだ。
(ど、どうしよう……。ドキドキしすぎて心臓が止まっちゃう)
杏璃が生命の危機に瀕している最中、央輔の低く穏やかな声音が耳を掠めた。
「いつまでもここにいたらご家族が心配する」
ハッとした杏璃はそうっと顔だけで振り返る。
門扉の前でニコニコとこちらの様子を窺っている晴子と家族の姿が見て取れる。
それだけでも恥ずかしいというのに、全員がガッツポーズを披露しているではないか。
おそらく、頑張れということなのだろう。
(もうヤダ。皆してなにやってんの!)
羞恥を通り越して腹立たしくなってくる。一言文句でも言ってやりたい心境だったが、それどころではなかった。
なぜなら、振り返ったままの杏璃の手を央輔の大きな手が包み込んだから。
「場所を移そうか」
「――っ⁉」
驚愕のあまり、杏璃はその場で再び固まった。
央輔に包まれた手を見開いた眼で凝視し、棒のように直立したまま一歩も動けない。顔は紅潮して熱いし、心臓の音がやけに耳について喧しい。
このままでは、今度こそ心臓の機能が停止する。
(何とかしてこの状況を切り抜けないと)
そう思うのに、どうすることもできない。
戸惑いと焦りとで頭の中はいっぱいいっぱいだ。
放心状態の杏璃に構うことなく、どこか楽しげな声を放った央輔が悪戯っ子のような笑みを零す。
「ほら、行くぞ」
杏璃はまたもや央輔に見蕩れ、胸をときめかせる。
ぽーっとしている間に、杏璃は車の助手席へと誘われていた。
車に疎い杏璃でも知っている高級外車の車体は白く、陽光に照らされて上品な光沢を放っている。
愛好者の間ではこれまで内装が安っぽいという意見があったらしいが、最新モデルでは、その辺りも一新されているらしい。というのは、趣味が車である海の受け売りである。
確かに、外観同様スタイリッシュで機能的かつラグジュアリー感満載だ。乗り心地は抜群だが、場違い感が半端ない。
おかげで緊張感は高まるばかり。
これまで異性と交流のなかった杏璃は、異性と手を繋ぐのも初めてなら、車中で家族以外の男性とふたりきりになるのも初めてだ。
意識した途端、車内の空気が薄くなった気がする。
そこにエンジン音が響き渡る。今まさに車を発進させた央輔を見遣ると、当然そこには推しと同じ麗しい相貌が待ち受けていた。
柔らかな日差しがフロントガラス越しに降り注いでいるせいだろうか。
央輔の髪が本来の栗毛色ではなく、推しと同じ黄金色に煌めいて見える。
(み、見ちゃダメ。余計意識しちゃう)