訳あって、推しに激似のクールな美容外科医と利害一致のソロ活婚をしたはずが溺愛婚になりました


『……いえ、別に。推しに対して見返りなんか求めていないので、結構です』

 憤慨した杏璃がツンとした冷ややかな口調でピシャリと言い放つと、彼はしばし思案するような素振りを見せた。

 杏璃がしてやったりと思っていると、何かを閃いたという顔をした央輔がこちらにずいっと迫ってくるなり。

『〝推しに対して見返りなんか求めていない〟なんて言いながら、本当は、怖いんじゃないか? 俺のことを好きになりそうで』

 勝ち誇ったようにそんなことを言ってきた。

 ――自意識過剰にもほどがある。

『そんなわけないじゃないですか。前にも言いましたけど――』

 ムッとした杏璃が推しについて説こうとするも、央輔に先手をとられてしまう。

『〝推しは崇高な存在〟なんだろ?』

 そればかりか、央輔はそう言いつつ尚もぐっと顔を寄せてくる。

『……そ、そうです』

 杏璃がなんとかそう返したものの、シートに手をついた央輔によって覆い被さるように迫られては、どうしようもない。

 推しと激似の麗しい顔を前に、ドキドキしすぎて息が苦しいほどである。

 だというのに、不敵な笑みを浮かべた央輔が畳みかけてくる。

『だったら問題はないよな。これから、利害一致のソロ活婚を継続するにあたり、協力は不可避だ。お互い同等の見返りがないとフェアじゃないだろ?』

 けれど、思考回路はうまく機能してくれない。

『……? 〝同等の見返り〟……ですか?』

 首を傾げ聞き返すことしかできない杏璃は、央輔に退路を完全に塞がれたのである。

『ああ。俺は杏璃のおかげで美容外科医を辞めなくて済むし、擦り寄ってくる女からも、苦痛な縁談攻撃からも解放される。どう考えても俺のほうが利が大きいだろ。だから、遠慮する必要はない。俺を好きになりそうだって言うなら、話は別だがな。どうする?』
『……そ、そういうことなら』

『よし。それじゃあ、話もついたことだし、行くか? 遅くなるとご家族が心配する』
『あっ、はい』

 杏璃はなんだかモヤモヤしつつも納得せざるを得なかった。

 が、しかし、その一週間後、杏璃はそのことを猛烈に後悔することとなる。

 なぜなら、推しであるアーサー王子のように振る舞うために、杏璃の推し活に同行したいと言い出したからである。

 もちろん、即刻お断りした。

 杏璃が知らなかっただけで、央輔はメディアで〝美容界の氷のプリンス〟と称され騒がれている身だ。

 そんな央輔がイベントに行こうものなら、パニックになるのは目に見えている。

 だが央輔は折れなかった。

『マスクして、PC用の眼鏡でもかけたら問題ないだろ。それに、これから妻になる杏璃の趣味について理解を深めるのは、夫として当然だろ。それぐらいしないと、叔父に勘ぐられるしな』

 央輔は渋る杏璃をもっともらしい言葉で説き伏せたのである。

 以来、続刊発売の記念イベントやコラボカフェなどなど、催しがあるたびに央輔も同行するようになった。
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