訳あって、推しに激似のクールな美容外科医と利害一致のソロ活婚をしたはずが溺愛婚になりました
すべては互いの利益のために


 推しに激似の央輔との初デートで思いがけずプロポーズされ、〝利害一致のソロ活婚〟を了承してから、早くも二ヶ月あまり。

 季節は、央輔と見合いをした麗らかな春から、生命に恵みの雨をもたらす梅雨の季節へと移ろい、もうすぐ八月を迎えようとしていた。

 その間、央輔との結婚に向けての準備は着々と進められた。あとは挙式の日を待つばかり、という状況だ。

 お互い本来の見合い相手ではなかったが、はじまりがどうであれ、気の合う相手に巡り会えたのだから、万々歳。

 これまで恋愛ごとに関心のなかった杏璃の親族もそれはそれは喜んでくれたが、央輔の親族も大いに喜んでくれていた。

 女性に対して苦手意識があると聞いてはいたが、親族にとっては深刻な悩みだったようで……。親族一同から『杏璃さんのおかげで、央輔もこれでようやく一人前の男になれます。杏璃さんには、本当に……お礼の申しあげようもありません……』時折声を詰まらせながらそんな言葉を賜ったほどだ。

 中でも、杏璃の祖父――人間国宝である泰臣の熱烈なファンだという、央輔の祖父の感激ぶりには度肝を抜かれた。

『まさか、人間国宝の泰臣氏と……このようなご縁に恵まれるとは……光栄至極に存じます。もう……思い残すこともございません』

 泰臣と固い握手を交わしつつ、涙ながらに喜びに打ち震えていた央輔の祖父は、後援会に毎年莫大な寄付金を納めてくださっているらしい。

 驚くことに、その繋がりゆえに晴子は洋輔と面識があったらしいのだ。

 どおりで、日本有数の財閥企業御曹司である央輔と人間国宝の孫とはいえ一般人の保育士である杏璃との縁談がトントン拍子に運ぶわけである。

 そんなわけで、善は急げとばかりに、双方の親族共に足並みを揃え結婚に向けての話はあれよあれよという間に纏まり、親族の顔合わせも結納も完了している。

 まだ一緒には暮らしてはいないが、新居も決まりある程度の荷物もすでに運び込んでいた。

 挙式は、央輔の誕生日である八月三日に執り行うことになっている。

 挙式まで残すところあと一週間。

 いよいよ〝結婚〟という二文字が現実味を帯びてきて、杏璃の心はそわそわしっぱなしだ。

 といっても、マリッジブルーなどという類いのものではない。

 この結婚は、愛などない、利害一致のソロ活婚なのだから、当然だ。

 なら、どうしてそわそわしっぱなしなのかというと……。理由は、結婚に対するものではなく、結婚相手である央輔にあった。

 央輔とは、ホテルでのプロポーズ以来、恋人を装うためのデートや結婚準備の兼ね合いで毎週のように会っている。

 その都度、車での送り迎えにエスコートはもちろん、さり気ない気遣いも欠かさない。

 あたかも、推しであるアーサー王子が現実世界に降臨したかのような、央輔の王子様然とした振る舞いに、何度魂を抜かれそうになったことか。

 いくら崇高な存在である推しとはいえ、異性に免疫のない杏璃には、刺激が強すぎる。

 それだから、何度目かのデートの帰り、家の駐車場に車が停車した際に物申したというのに、央輔はやけに得意げに言い放ったのだ。

『あの、央輔さん。家族のいないところでは、恋人のような振る舞いなんて必要ないと思うんですが……』
『いや、誰に見られるかわからないんだ、恋人のように振る舞うのは当然だろ。それに、ソロ活婚を快く受け入れてくれた杏璃にだって、それなりのメリットがないと不公平だからな』

『……〝それなりのメリット〟……ですか……』
『ああ。推しにそっくりなんだろ?』

『……え? あっ、はい』
『だったら、ソロ活婚を快諾した報酬として、推しにそっくりな俺を有効活用すればいい。希望があれば何でも言ってくれ。俺なら、何でも叶えてやれるぞ』

(……え? 何でも? そんなこと急に言われても……どうしよう)

 一瞬、ぐらつきかけた杏璃だったが、なんとか踏ん張った。

 いつもは無表情で何を考えているかわからないのに、得意満面でここぞとばかりに推しと激似の相貌を引き合いに出されても、嬉しくもなんともない。

(いくら推しに似てるからって、いい気にならないでほしい。似てるのは見かけだけで、中身はまったく違うんだから!)
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