訳あって、推しに激似のクールな美容外科医と利害一致のソロ活婚をしたはずが溺愛婚になりました
推しが央輔に変わったのだから、嘘ではない。ゆえに、熱量も説得力も絶大だったようで、央輔が納得する素振りを見せた。
「……そ、そうか、……そうだよな……」
――よし、もう一押し。
杏璃は、渾身の作り笑顔を浮かべて明るい声で畳みかける。
「はい! だからお気遣いは無用です」
「……」
一押しが効いたのか、央輔は押し黙ってしまう。心なしかガックリと肩を落としているように見えるのは気のせいだろうか。
ふと杏璃の脳裏にある考えが浮かんだ。
(もしかして、疲れてるのかな?)
昨夜は何度も意識を失いかけて記憶があやふやだが、随分激しかったように思う。
現に、杏璃の身体には、央輔に翻弄された余韻と疲労感とが色濃く残っている。
(私でさえ、動くのがキツいんだから、そりゃ無理もないよね)
そう納得したのも束の間、状況は一変する。
なぜなら、唐突に央輔によってベッドに組み敷かれてしまったから。
(――え? 今度は何? どうかした?)
状況が読めず杏璃はキョトンとするしかない。そこにふっと不敵な笑みを浮かべた央輔が迫ってくるなり、意地の悪い声で囁いた。
「なら、推しそっくりの子どもを授かれるよう、夫として協力しないとな」
不意打ちの意味深発言に思考が追いつかず、杏璃はポカンとしたまま問い返す。
「……キョウリョク……ですか?」
すると笑みを深めた央輔が下腹部に手を沿わせながら言う。
「昨夜、杏璃が『早く満たして』って強請ったときみたいに可愛がって、〝ここに〟子種をたっぷり注ぐってことだよ」
意地悪な声で「ここに」と言うのにあわせて下腹部を撫でられたけで秘処に蜜が滲み、最奥がズクンと疼く。
(……ヤダ。恥ずかしい)
今すぐ消え去りたい心境だ。
だが、自ら報酬に子どもを望んだ手前、後には引けない。
心を決めて央輔に向き合おうとしたそのとき、央輔が笑み混じりに問い返してきた。
「思い出したか?」
ますます羞恥に駆られる杏璃だったが、自分とは正反対の余裕綽々な央輔に苛立ちを覚えた。
杏璃を抱くことなど特別でもなんでもないと、央輔の言動が物語っている気がしたから。
つまりは、経験豊富な央輔にとって自分は、過去に関係を持った数いる女性の一人に過ぎない、と。
当然だ、この結婚は、愛などない、利害一致のソロ活婚なのだから。
身勝手な感情だとわかっているのに、腹立ちを抑えられない。
「そ、そんなの忘れました!」
即座に言い返した杏璃に、央輔は当然とばかりに言い放つ。
「なら、思い出せるようにしないとな。推しにソックリな俺との記念すべき初夜なんだからな」
意図を察した杏璃が顔を赤らめると、満足そうな央輔がゆっくり覆い被さってくる。
反射的に目を閉じると、央輔が頬を擽るように撫でてくる。まるで杏璃の複雑な心情を優しく宥めるようにして。
杏璃はこれ以上にないほど顔を赤らめた。央輔は満足そうに見遣ると、杏璃の身体を包み込むように抱きしめてくる。思わず目をギュッと閉じると頬に彼の手がそっと触れて――
「杏璃」
甘い声音に誘われるように目を開くと、優しく見つめる央輔と視線が重なった。
たちまち杏璃の胸がキュンと疼いて、金縛りにでもあったかのように微動だにできない。
なぜなら、アーサー王子が愛するアイリスにだけ向ける慈愛に満ちた眼差しそのものだったから。
そのせいか、ただ名前を呼ばれただけなのに、愛でも囁かれているような錯覚を起こしそうになった。
これまで同様、杏璃への報酬だというのは理解している。
なのに、好きだと自覚したせいか、今にも想いが溢れてしまいそうで怖い――
(これは報酬なんだから、勘違いしちゃダメ)
杏璃は心の中でそう呟きながら央輔の頭を引き寄せ自らくちづけた。
央輔は驚いているのか僅かに身体をびくつかせたが、すぐにキスに応えてくれる。
安堵する杏璃の後頭部をぐっと引き寄せ、性急に歯列をなぞり隙間から舌を捩じ込んでくる。
「……ん、んぅ」
央輔の貪るようなキスに翻弄される杏璃のくぐもった声が部屋の静寂に溶け込んでゆく。
――推しの妻として一緒にいられるなら、他にはもう何も要らない。
杏璃はそんなことを密かに願いながら央輔との甘美なキスに酔い痴れていた。
かくして杏璃は、異国の地で朝も昼も夜もなく、推しとなった央輔と子作りに励むこととなったのだった。