訳あって、推しに激似のクールな美容外科医と利害一致のソロ活婚をしたはずが溺愛婚になりました
推しの妻であるために
目を覚ました杏璃は、微睡みのようなぬくもりに包まれていた。
あまりに心地が良くてそのまま寝そうになったほどだ。だがそのぬくもりの正体を認識した途端、杏璃は飛び起きた。……つもりが、央輔にしっかりと抱き込まれていて、身動き一つとれない。
しかも、お互い何も身に着けていない素っ裸である。
(――え? 何? どういうこと……?)
混乱する頭で必死に記憶を辿っていくうち、央輔と過ごした初夜へと行き当たった。
(……夢じゃなかったんだ。私、本当に央輔さんと……本物の新婚夫婦みたいなコトしちゃったんだ……!)
同時に、央輔の逞しい体躯、汗ばんだ肌の匂いや感触、熱く荒々しい息遣いまでもが呼び起こされる。
全身も鉛のように重いし、むちゃくちゃ怠い。何より下腹部の違和感が半端ない。何か大きな異物でも収まっているかのような……
(た、確かに、園児のとは比べものになんないくらい大きかったけどって……キャー! そんな記憶まで思い出さなくていいから!)
余計な記憶まで掘り起こしてしまった杏璃は、全身を真っ赤に染め上げ固まった。
そこに央輔から声がかかり、杏璃はさらなる窮地に追い込まれることとなる。
「……いくら杏璃に誘われたからって、加減もしてやれず悪かった」
バツ悪そうに謝罪されたところで、身に覚えがまったくない。大混乱である。
「――っ⁉」
(ええ⁉ さ、誘ったって、ど、どどど、どういう……――っ‼)
だが、央輔に抱っこをせがむ自身の姿が脳裏に浮かび、ショックのあまり言葉を失い項垂れた。
(うっそ。私ってばなんてことを……!)
アルコールのせいに違いない。
(……カクテルなんか飲むんじゃなかった)
今さらながらに悔やんでいると、体調を案じた彼が問い掛けてきた。
「杏璃、気分でも悪いのか?」
ハッとして顔を上げると、央輔が気遣わしげに顔を覗き込んでくる。
彼に正面から見つめられ、気まずさと羞恥が一気に押し寄せる。
杏璃は首を左右に振って応えるのがやっとだ。
すると心底安堵したように息をついた央輔が思い切るようにして声を放った。
「なら、少し話さないか? 確かめたいこともあるし」
央輔は、これまで一度も見たことがないほど真剣な表情をしている。そのせいか、なんだか胸がざわついて落ち着かない。
もしかして、自身に対する杏璃の想いに気づいているのだろうか。
いくら酔っていたとはいえ、好きでもない相手を誘ったりはしないだろうし……
きっかけがどうであれ、初体験で好きでもない相手を受け入れたりしないはずだ。
でも、央輔が推しであるアーサー王子と瓜二つなだけに、半信半疑で確証が持てないのかも。
(なるほど。だからそれを確認しようとしてるんだ)
ソロ活婚を提案された際、干渉しないでほしいと言っていたくらいだ。好きだとバレたら、煩わしいと思うに違いない。
それどころか、他の女性と同じように嫌悪されるんじゃないだろうか。
と、思考が及んだ刹那、杏璃は心の中で絶叫していた。
(そんなの絶対に嫌!)
だったら、この想いを知られるわけにはいかない。
――でないと、一緒にいられなくなってしまう。
央輔と出会った頃は、推しのことで頭がいっぱいだったはずだ。
なのに、今は央輔のことしか考えられない。
杏璃の心は、央輔に占拠されてしまったようだ。もはや杏璃にとっての推しは、央輔であると言っていいだろう。
だったら、推しである央輔の妻でいられるように、この気持ちは隠しとおすしかない。
――そうと決まれば実行あるのみ!
あれこれ思案しているうち、心が決まった杏璃は声を張り上げた。
「望むところです!」
「……ん? のぞ……」
「なんでもありません。それより、確かめたいことってなんですか?」
「あ、ああ。昨夜のことなんだが、杏璃と一晩過ごして……それで、ようやく杏璃の――」
――やはり央輔は、杏璃の気持ちを確かめようとしている。
確信した杏璃は、核心を突かれてしまう前に先手を打つのだった。
「わざわざ確認しなくても、わかってますから。ソロ活婚とはいえ、もともとはお見合い結婚ですもんね。子どもをもうけるのは当然です」
「あ、いや、そういうことでは……」
ぐいぐい迫った杏璃の気迫に気圧されたのだろうか。央輔は戸惑いながらも話を戻そうとするが、構わず言葉を重ねていく。
「大丈夫です! 報酬をもらってばかりでは申し訳ないし。ていうか、推しにそっくりな子どもなんて授かっちゃったら、最高じゃないですか! それこそ、報酬ですよ!」