訳あって、推しに激似のクールな美容外科医と利害一致のソロ活婚をしたはずが溺愛婚になりました
従兄の奇襲
一時間後、杏璃は自宅玄関で、急遽呼び出され仕事に向う央輔のお見送りをしているところだ。
「央輔さん、気をつけていってきてくださいね」
「なるべく早く帰る。杏璃も気をつけていってくるんだぞ」
昨夜、想いが通じ合ってからというもの、人が変わったように気持ちを曝け出してくれるようになった央輔。
今も、数時間家を空けるだけだというのに、心から心配そうに杏璃を気遣ってくれている。それだけで、胸の中がポカポカと暖かくなる。
胸に渦巻いていた不安さえも薄れてゆく。
(幸せって、こういうことを言うんだなぁ)
杏璃はふとした瞬間に、そう感じては密かにまどろみのような幸福を噛みしめていた。
「海兄が迎えに来てくれるらしいので、大丈夫ですよ」
返した言葉も自然に弾んでしまう。
ところが、どういうわけか央輔は途端にムスッとした表情に変化した。先ほどまでの蕩けるような甘さが跡形もない。
――どうしたのだろうか?
杏璃が不思議に思って首を傾げたちょうどその時、央輔が面白くなさそうに声をポロッと漏らした。
「だから心配なんだろ……」
「え?」
あまりに小さく、杏璃は聞き逃してしまう。
すると間髪入れずに「いや、なんでもない」と言ってきた央輔の腕に閉じ込められた。
たちまち、央輔のぬくもりと匂いに包み込まれて、安堵感と幸福感が満ちてゆく。
何もかもがどうでも良くなってくる。
央輔と離れがたくて、このままずっとずっとこうしてくっついていたいぐらいだ。
央輔もそう思ってくれているのだろうか。骨が軋むほどぎゅぎゅっと抱きしめられた。
そうして思い切るようにして杏璃を腕から解いた央輔が、チュッと額に甘いキスを降らせた。
「じゃぁ、いってくる」
「……はい」
それでもまだ離れがたくて、杏璃は後ろ髪を引かれる思いで央輔から離れようとした、その刹那のことである。
「央輔~、会いたかったわぁ!」
どこからともなく放たれた女性の甲高い声がフロア内に響き渡った。語尾にハートマークがついていそうな甘ったるい声音だ。
驚いている間もなく、こちらに駆け寄ってきた声の主が目の前の央輔に凄い勢いで抱きついた。
――も、もしかしてこれは、噂に聞く『修羅場』というやつだろうか?
などと、頭の中では冷静なもう一人の自分が呑気なことを呟くのに。あたかも後頭部を鈍器で殴りつけられたかのようなとてつもない衝撃が杏璃の全身に駆け巡る。心臓が鷲づかみにでもされたのかと思うほどの痛みが胸を襲う。
気づけば杏璃の頬を温かな雫が濡らしていた。
どうすることもできずに茫然としていると、楽しそうな女性の声が杏璃にかけられた。
「あっ! こちらが杏璃さん? まぁ、可愛らしい~! 央輔との新婚生活はどう? って、あらあら、ラッブラブのようね~!」
(あれ? これって……修羅場じゃなかったの? だったら何? どういうこと?)
杏璃はわけがわからずポカンとするしかない。涙を拭うような余裕もない。
そこに央輔から盛大な溜息が吐き出される。続いて、これまで一度も耳にしたことのない怒りに満ちた低音が炸裂した。
「啓輔! おまえが来るなんて聞いてないぞ! いや、それよりキモいからさっさと離れろ! 杏璃が誤解したらどうしてくれる?」
「あ~ら、ごめんなさい。でも、遅かったみたいよ。杏璃ちゃん、泣いちゃってるもの」
どうやら、修羅場ではなかったようだが、『啓輔』と呼ばれた女性? は一体誰なのだろうか。
華やかで魅力的な美女にしか見えないが、女性にしては身長が高く、央輔と大差ない。そういえば、声も少し低いような。
謎は深まるばかりだ。
「央輔さん、気をつけていってきてくださいね」
「なるべく早く帰る。杏璃も気をつけていってくるんだぞ」
昨夜、想いが通じ合ってからというもの、人が変わったように気持ちを曝け出してくれるようになった央輔。
今も、数時間家を空けるだけだというのに、心から心配そうに杏璃を気遣ってくれている。それだけで、胸の中がポカポカと暖かくなる。
胸に渦巻いていた不安さえも薄れてゆく。
(幸せって、こういうことを言うんだなぁ)
杏璃はふとした瞬間に、そう感じては密かにまどろみのような幸福を噛みしめていた。
「海兄が迎えに来てくれるらしいので、大丈夫ですよ」
返した言葉も自然に弾んでしまう。
ところが、どういうわけか央輔は途端にムスッとした表情に変化した。先ほどまでの蕩けるような甘さが跡形もない。
――どうしたのだろうか?
杏璃が不思議に思って首を傾げたちょうどその時、央輔が面白くなさそうに声をポロッと漏らした。
「だから心配なんだろ……」
「え?」
あまりに小さく、杏璃は聞き逃してしまう。
すると間髪入れずに「いや、なんでもない」と言ってきた央輔の腕に閉じ込められた。
たちまち、央輔のぬくもりと匂いに包み込まれて、安堵感と幸福感が満ちてゆく。
何もかもがどうでも良くなってくる。
央輔と離れがたくて、このままずっとずっとこうしてくっついていたいぐらいだ。
央輔もそう思ってくれているのだろうか。骨が軋むほどぎゅぎゅっと抱きしめられた。
そうして思い切るようにして杏璃を腕から解いた央輔が、チュッと額に甘いキスを降らせた。
「じゃぁ、いってくる」
「……はい」
それでもまだ離れがたくて、杏璃は後ろ髪を引かれる思いで央輔から離れようとした、その刹那のことである。
「央輔~、会いたかったわぁ!」
どこからともなく放たれた女性の甲高い声がフロア内に響き渡った。語尾にハートマークがついていそうな甘ったるい声音だ。
驚いている間もなく、こちらに駆け寄ってきた声の主が目の前の央輔に凄い勢いで抱きついた。
――も、もしかしてこれは、噂に聞く『修羅場』というやつだろうか?
などと、頭の中では冷静なもう一人の自分が呑気なことを呟くのに。あたかも後頭部を鈍器で殴りつけられたかのようなとてつもない衝撃が杏璃の全身に駆け巡る。心臓が鷲づかみにでもされたのかと思うほどの痛みが胸を襲う。
気づけば杏璃の頬を温かな雫が濡らしていた。
どうすることもできずに茫然としていると、楽しそうな女性の声が杏璃にかけられた。
「あっ! こちらが杏璃さん? まぁ、可愛らしい~! 央輔との新婚生活はどう? って、あらあら、ラッブラブのようね~!」
(あれ? これって……修羅場じゃなかったの? だったら何? どういうこと?)
杏璃はわけがわからずポカンとするしかない。涙を拭うような余裕もない。
そこに央輔から盛大な溜息が吐き出される。続いて、これまで一度も耳にしたことのない怒りに満ちた低音が炸裂した。
「啓輔! おまえが来るなんて聞いてないぞ! いや、それよりキモいからさっさと離れろ! 杏璃が誤解したらどうしてくれる?」
「あ~ら、ごめんなさい。でも、遅かったみたいよ。杏璃ちゃん、泣いちゃってるもの」
どうやら、修羅場ではなかったようだが、『啓輔』と呼ばれた女性? は一体誰なのだろうか。
華やかで魅力的な美女にしか見えないが、女性にしては身長が高く、央輔と大差ない。そういえば、声も少し低いような。
謎は深まるばかりだ。