訳あって、推しに激似のクールな美容外科医と利害一致のソロ活婚をしたはずが溺愛婚になりました
だというのに、マナーモードのスマホは正面にあるテーブル上で存在感を鼓舞するかのように震え続ける。杏璃は、この甘くまったりした心地いい央輔との幸せなひと時を邪魔されたくなくて、しばし無視を決め込んでいた。けれど、一向に途切れる気配がなく、とうとう央輔から声がかかる。
「出なくていいのか?」
杏璃は仕方なくスマホに手を伸ばし着信相手を確認する。画面には『高邑海』と表示されている。
「……海兄? なんだろ、着信なんて珍しい」
そういえば、まともに話すのなんて、ドバイから帰国した際に央輔と共に実家に顔を出して以来かもしれない。その際、ふたりの従兄弟から『寂しいからたまには顔を見せろよ』と言われたのを思い出す。といっても一ヶ月ほどしか経っていないし、何か急用でもあるのだろうか。杏璃が思案していると央輔の声が重なる。
「急用だといけないだろ、俺のことは気にせず出ろ、ほら」
その声に促された杏璃は自分の置かれた状況など顧みる余裕などなかった。
「――はい、杏璃です」
『……杏璃か。久しぶりだな。近頃ちっとも寄りつかないから気になって気になって。で、どうなんだ? 旦那とはうまくいってんのか? 元々見合いの相手でもなかったし、大事にしてもらってるのか心配で心配で……。おい、早く代われっ。杏璃、元気か? 旦那に、大事にしてもらってるんだろうな』
「……え? あーうん。海兄、ありがとう。うん、すっごく大事にしてもらってるよ。うん。だから心配しないで。ああ、うん。空兄もありがとう」
電話に応じたら応じたで、海と空が代わる代わる声をかけてくる。急用でもないようで、実家に顔を出さない杏璃の近況が気になっているだけのようだ。ホッとしたのは一瞬で、またかと落胆にも似た感情が顔を覗かせる。
思えば、杏璃が中学生になった頃くらいから、ふたりの心配性は度を超していたように思う。帰宅時間が少しでも遅くなると、こうしてすぐに着信があった。何だか監視されている気がしたし、ひどく窮屈に思えてならなかった。
だが、自分のことを実の妹のように案じてくれているふたりの心情を思うと無碍にもできず、素直に受け入れていた。
そういえば聞こえはいいが、本音は違う。何もかも諦めていたのだ。そうしたほうが楽だったから。だからこそ、推しである氷のプリンスに夢中になることで現実世界から目を背けていたのである。
――けれど、今は違う。
推しに夢中だった杏璃に偏見も持たず、すべてを受け入れてくれた央輔と心から通じ合い――正真正銘の夫婦になれた。
何もかも諦めていた杏璃を窮屈でならなかった日常から救い出してくれたのは、夫である央輔だ。
杏璃にとって最愛の人である央輔のこともふたりに受け入れて欲しい――それだけは諦めたくない。
そんな思いでふたりに向き合っていたのだが、央輔にとっては面白くなかったのかもしれない。
いつだったか、意識しまくりの杏璃に、自分を兄だと思えばいいだろ発言をした央輔。もしかすると、嫉妬したのかもしれない。それは非常に喜ばしいのだけれど、こんな場面では控えて欲しかった。杏璃はそう思わずにはいられなかった。
何故なら、央輔がふたりと通話中の杏璃に不埒な悪戯を仕掛けてきたからだ。
応対する杏璃の様子から急用ではないと踏んだ央輔は、杏璃自らが胸へと宛がった央輔の手を開くと五指を柔肌に食い込ませた。
(……え、ヤダ。今そんなことされたら変な声がでちゃう……)
そう思うのに、央輔の逞しい体躯に背後から包み込まれたいる杏璃にはどうすることもできない。すべてを知り尽くした央輔に少し触れられただけで力が抜けて身体が言うことを聞かないのだ。
央輔は素知らぬ様子で胸を弄りながら、杏璃の項に熱い舌を這わせてゆく。
「……んっ、……ふ……っ」
『杏璃? どうした?』
「あっ、ううん。……ち、ちゃんと……んぅ、ん、聞いてるよ」
『電話じゃ言いにくいこともあるんだろ?』
「え? ううん、別に……な、いけどっ……んぅ」
『いや心配だ、今から行く』
「何もないなら、今から行っても問題ないだろ? それとも俺たちが行ったらまずい事でもあるのか」
「いや、別にそんなことないけど。ええ? 今から?」
『なら問題ないだろ』
「え、ちょっと、海兄?」
央輔の不埒な悪戯にどうにかこうにか耐えしのぎながらふたりと会話していた杏璃だった。けれど、それがかえってふたりには誤魔化しているように聞こえてしまったようだ。
心配性のふたりは矢も盾も堪らないと言った風情で杏璃の言葉には耳も貸さず、いきなり通話が途切れてしまうのだった。
ガックリと項垂れた杏璃が力なく振り返って央輔に文句を告げると。
「央輔さんがエッチなことするから、今から来るって言って切れちゃいましたよ」
「杏璃をとられた気がして、つい。悪かった」
央輔は思いの外シュンとした様子でバツ悪そうに謝ってきた。
あまりにも可愛い言い訳に杏璃は不覚にもキュンとさせられて、何も言えなくなってしまうのだった。
「……いえ、こちらこそ、過保護すぎる従兄弟がごめんなさい」
「いや、杏璃は何も悪くないだろ。大人げない俺が悪かったんだ」
そして最後には仲良く謝りあいっこするという何とも微笑ましいふたりだった。
「出なくていいのか?」
杏璃は仕方なくスマホに手を伸ばし着信相手を確認する。画面には『高邑海』と表示されている。
「……海兄? なんだろ、着信なんて珍しい」
そういえば、まともに話すのなんて、ドバイから帰国した際に央輔と共に実家に顔を出して以来かもしれない。その際、ふたりの従兄弟から『寂しいからたまには顔を見せろよ』と言われたのを思い出す。といっても一ヶ月ほどしか経っていないし、何か急用でもあるのだろうか。杏璃が思案していると央輔の声が重なる。
「急用だといけないだろ、俺のことは気にせず出ろ、ほら」
その声に促された杏璃は自分の置かれた状況など顧みる余裕などなかった。
「――はい、杏璃です」
『……杏璃か。久しぶりだな。近頃ちっとも寄りつかないから気になって気になって。で、どうなんだ? 旦那とはうまくいってんのか? 元々見合いの相手でもなかったし、大事にしてもらってるのか心配で心配で……。おい、早く代われっ。杏璃、元気か? 旦那に、大事にしてもらってるんだろうな』
「……え? あーうん。海兄、ありがとう。うん、すっごく大事にしてもらってるよ。うん。だから心配しないで。ああ、うん。空兄もありがとう」
電話に応じたら応じたで、海と空が代わる代わる声をかけてくる。急用でもないようで、実家に顔を出さない杏璃の近況が気になっているだけのようだ。ホッとしたのは一瞬で、またかと落胆にも似た感情が顔を覗かせる。
思えば、杏璃が中学生になった頃くらいから、ふたりの心配性は度を超していたように思う。帰宅時間が少しでも遅くなると、こうしてすぐに着信があった。何だか監視されている気がしたし、ひどく窮屈に思えてならなかった。
だが、自分のことを実の妹のように案じてくれているふたりの心情を思うと無碍にもできず、素直に受け入れていた。
そういえば聞こえはいいが、本音は違う。何もかも諦めていたのだ。そうしたほうが楽だったから。だからこそ、推しである氷のプリンスに夢中になることで現実世界から目を背けていたのである。
――けれど、今は違う。
推しに夢中だった杏璃に偏見も持たず、すべてを受け入れてくれた央輔と心から通じ合い――正真正銘の夫婦になれた。
何もかも諦めていた杏璃を窮屈でならなかった日常から救い出してくれたのは、夫である央輔だ。
杏璃にとって最愛の人である央輔のこともふたりに受け入れて欲しい――それだけは諦めたくない。
そんな思いでふたりに向き合っていたのだが、央輔にとっては面白くなかったのかもしれない。
いつだったか、意識しまくりの杏璃に、自分を兄だと思えばいいだろ発言をした央輔。もしかすると、嫉妬したのかもしれない。それは非常に喜ばしいのだけれど、こんな場面では控えて欲しかった。杏璃はそう思わずにはいられなかった。
何故なら、央輔がふたりと通話中の杏璃に不埒な悪戯を仕掛けてきたからだ。
応対する杏璃の様子から急用ではないと踏んだ央輔は、杏璃自らが胸へと宛がった央輔の手を開くと五指を柔肌に食い込ませた。
(……え、ヤダ。今そんなことされたら変な声がでちゃう……)
そう思うのに、央輔の逞しい体躯に背後から包み込まれたいる杏璃にはどうすることもできない。すべてを知り尽くした央輔に少し触れられただけで力が抜けて身体が言うことを聞かないのだ。
央輔は素知らぬ様子で胸を弄りながら、杏璃の項に熱い舌を這わせてゆく。
「……んっ、……ふ……っ」
『杏璃? どうした?』
「あっ、ううん。……ち、ちゃんと……んぅ、ん、聞いてるよ」
『電話じゃ言いにくいこともあるんだろ?』
「え? ううん、別に……な、いけどっ……んぅ」
『いや心配だ、今から行く』
「何もないなら、今から行っても問題ないだろ? それとも俺たちが行ったらまずい事でもあるのか」
「いや、別にそんなことないけど。ええ? 今から?」
『なら問題ないだろ』
「え、ちょっと、海兄?」
央輔の不埒な悪戯にどうにかこうにか耐えしのぎながらふたりと会話していた杏璃だった。けれど、それがかえってふたりには誤魔化しているように聞こえてしまったようだ。
心配性のふたりは矢も盾も堪らないと言った風情で杏璃の言葉には耳も貸さず、いきなり通話が途切れてしまうのだった。
ガックリと項垂れた杏璃が力なく振り返って央輔に文句を告げると。
「央輔さんがエッチなことするから、今から来るって言って切れちゃいましたよ」
「杏璃をとられた気がして、つい。悪かった」
央輔は思いの外シュンとした様子でバツ悪そうに謝ってきた。
あまりにも可愛い言い訳に杏璃は不覚にもキュンとさせられて、何も言えなくなってしまうのだった。
「……いえ、こちらこそ、過保護すぎる従兄弟がごめんなさい」
「いや、杏璃は何も悪くないだろ。大人げない俺が悪かったんだ」
そして最後には仲良く謝りあいっこするという何とも微笑ましいふたりだった。