訳あって、推しに激似のクールな美容外科医と利害一致のソロ活婚をしたはずが溺愛婚になりました
違和感の正体
 洋輔が寄越した運転手付きの高級セダンに啓輔と共に乗り込んだ央輔は、後部座席で盛大な溜息を連発していた。

 これから、面倒な相手と相まみえようというのに、啓輔が大きな図体をクネクネさせながら空気の読めないことばかりほざいているからだ。

「ほんとにビックリしたわぁ。『女なんて撃退する対象でしかない』なんてぼやいてた央輔が、あんなにデレデレする日がくるなんてねぇ。もう、やっだ~、あたしが照れちゃってどうするのよ~」

 挙げ句、郵便ポスト並みに紅潮した顔を両手で挟んで悶絶しつつキャッキャと騒いでいる。

 おかげで、喧しくて敵わない。

 ただでさえ、杏璃との貴重な休日を潰されて苛立っているというのに、この仕打ちはないだろう。

(昨日もお預け食らったってのに。俺が何をしたって言うんだ……まったく)

 苛立ちついでに、啓輔が杏璃をハグしていた場面が脳裏を掠めた。

 たちまち、タブレット端末で資料の確認を進めていた手がわなわなと怒りに震え出す。

(あー、くそっ! 今すぐ東京湾にぶち込んでやりたい)

 腹の底から湧き起こる殺意を何とか抑えて、これ見よがしに低い声とブリザードを放つ。

「煩い黙れ、気が散る」
「キャー、ブリザード。日本に帰ってきたって実感しちゃった。懐かしいわね~」

 おとなしくなるどころか余計に盛り上がり、感慨に耽りはじめた啓輔の反応に、もはや呆れを通り越して目眩を覚えただけだった。

 とはいえ、海外に拠点を置く啓輔なら、芸能面に限らず多方面にも詳しいはずだ。自ら紹介してきたくらいだ、相手の内情も摑んでいるに違いない。

 見かけも中身も女ではあるが、洋輔の遺伝子を継いでいるのだから。でないと、海外で通用などしないはずだ。

「……啓輔、おまえなぁ。相手はパートナーの好みに合わせて、ショッピング感覚でオペしてくれって言うような、我が儘で有名なハリウッド女優なんだぞ。気に入らないことでもあってみろ、訴訟問題になりかねない。それでなくても、医師にはリスク説明義務があるんだ。あらゆることを想定した、リスクマネジメントは必須だろ」

 とりあえず、探りを入れてみたのだが……

「あーら、大丈夫よ~。美容界の氷のプリンスである、顔良し腕良しの央輔だったら、文句なんて言わないと思うわぁ」

 相変わらずのオネエ口調が返ってくるだけで、有益な情報は得られず終いだった。

 これ以上、啓輔に構っていても無駄だと諦めた央輔は、再びタブレットへと意識を集中させる。

「……とにかく、後で訴訟問題にならないためにも、術式ごとのリスクとメリットだけでなく、考え得る限りの不測の事態を想定して、明確に伝える必要がある。念のため、過去の医療過誤や医療事故の裁判事例にも目を通しておくべきだな――」
「もー、感動のご対面だって言うのに、央輔ってば、相変わらずつれないわね~。この、ムッツリスケベ!」

 しばらくの間、ブスくれていた啓輔が続け様に何かを呟いていたようだが、央輔はスルーを決め込んだ。

 央輔は、そのことを猛烈に後悔することとなる。
 
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